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「力の論理」が失わせたもの

2008年11月14日(金)

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 タクシーに乗っていたら隣の車にからまれた。

 20代の青年が持ちうる限りのドスを効かした声で老齢のタクシー運転手を威嚇した。運転手はペコペコ頭を下げることで難から逃れた。その間、青年の車でずっと道路を閉鎖した形になった。ひとりの青年がキレたことで大勢のドライバーたちに長時間迷惑をかけた。しかし青年は周りへの配慮より自分の感情を優先した。

 私はその青年の姿を見ながら、同じ大阪の梅田で起きた事件、3キロ人を引きずって運転し死亡させた犯人の青年のことを思い出していた。

 運転手がボソっと言った。

 「このまえも、若い男が気に入らない前の車をこん棒でボコボコにしているのを目撃しました。ああいう連中には逆らったらあきまへん・・・」

 これら昨今の青年たちのキレる原因についてはいろんな説がいわれているが、私は「市場原理」が影響しているように思えてならない。それはつまり「力の原理」だ。

 年寄りへの配慮より、腕力の強いほうが強者であるという力の原理。感情がキレた瞬間、どっちが強いかでもって勝負が決まる。今の時代、金でも腕力でも、力を持ったほうが正しいのだ。

 芸能界でも私が新人の頃と今とでは「力の原理」にまつわる風景は変化している。

 私がなぜ芸能界に入れたかは、当時のプロデューサーの意向が大きく影響していた。今でもそうだが大手プロダクションはテレビ局には絶大な力がある。局員が自由に番組を作りたいと願っても、どうしたって大手プロダクションに譲歩したキャスティングになる。

 だが、かつては「権力には従いましょう。ただし、僕の好きにさせてもらう枠だって確保させていただく」というプロデューサーの意地のようなものがあった。そうして大手に所属しない私の起用が決まったのだ。

 今ではそんな意地のあるプロデューサーを、私は誰ひとり知らない。

 私の見る限り東京も大阪も、力のあるプロダクションに各局ともとても従順だ。力の原理は昔も今もあるとはいえ、そこにあったはずの、力を持たない者がチャンスを掴む隙間は閉ざされてしまったというのが、今の芸能界に感じることだ。今なら私のデビューはなかっただろう。

 そんな私にとって驚きだったのが、森進一さんと作詞家の川内康範さんのトラブルだった。川内さんは森さんに「もう歌ってほしくない」と言った。歌は誰のものか。誰がそれを封印する権利があるのか。それが議論されることなく森さんはまず、その昔お世話になった先生の言うことを聞いて歌を封印した。

 おそらくかつては歌謡界で君臨しただろうが、もうかなりご高齢の先生の意向に歌謡界全体が従った構図に、私は「歌謡界にはまだ競争原理だけではないものが残っている」と思ったものだった。

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「「力の論理」が失わせたもの」の著者

遙 洋子

遙 洋子(はるか・ようこ)

タレント・エッセイスト

関西を中心にタレント活動を行う。東京大学大学院の上野千鶴子ゼミでフェミニズム・社会学を学び、『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』を執筆。これを機に、女性の視点で社会を読み解く記事執筆、講演などを行う。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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