「俺は聞いていない」は、権威主義の男性上司の常套句だと思っていた。だが、昨今は、キャリアウーマンがその言葉を吐くのを目撃するようになった。
ある出版社でのこと。
本の売上部数が落ち、出版界は今そのことで深刻な打撃を受けている。私も執筆者として売上向上の営業努力を課せられる立場だ。
「私の本を100冊自宅に送ってください」と担当者の女性に注文した。本が出版されるとその宣伝のために本を各番組にばら撒くことが多いからだった。
「わかりました」とその女性は返事した。
そして、私のところに本が届いたのはそれから10日後だった。私がいろんな番組に出演した後だ。新刊はすぐには書店に並びきれておらず、仕方なく私は手ぶらで本の宣伝に回った。
「なぜすぐ送ってくれなかったのか」と言うと、その女性は、「“急ぎ”とは聞いていませんでしたから」と返事した。
数カ月後に大きなイベントを控えていた。
「私の本を会場で売れるように営業に手配お願いします」とその女性に要請した。何かイベントがあってそこで本を売らせてもらう場合、出版社の営業がイベント主催者に掛け合うことがある。
数十冊なら著者本人が直接交渉することもあるが、大きなイベントになるほど冊数の桁が違い、出版社の出番となる。数十冊から数百冊まで、イベントの規模によって売れる冊数には大きな幅があった。
「わかりました」とその女性は返事した。
それから数カ月。イベント当日まで度重なる交渉の結果、そのイベント趣旨を理由に、本を置く許可は主催者から出なかったという旨の報告が、私のところに届いた。
こういう結果は普通にあり、別に驚くほどのことではない。
「では、近所の書店で販売させてもらいましょう」
書店に、イベント当日に本を積み上げてもらえるように営業がお願いに行くよう、私は提案した。そうすれば、イベントで私を見たお客様で、興味のある方は帰りに本屋に立ち寄ってくださるかもしれないと踏んだ判断だった。
「積み上げてくださるよう頼みました」という出版社からの報告が私のところに届き、勢いづいた私はそのイベントでおおいに自分の本をアピールした。
予測は当たり、書店は大勢のイベント帰りのお客様でごった返しているとの報告が入った。そして「ところが書店には、遙さんの本が入荷されてません」と。
「いったいこれはどういうことですか」
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