• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

「人と飯を食え! 対面する場に宝あり」

山下亀三郎伝・1

  • 山岡 淳一郎

バックナンバー

2008年12月8日(月)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 世界恐慌が猛威を振るっていた1930年代初頭、日本でも多くの企業が倒れ、失業者が巷に溢れた。「米」と「生糸」に頼っていた農村は、米価が下落し、生糸の対米輸出も激減。壊滅的な打撃を受けた。娘の身売りや欠食児童の問題が深刻化し、その怨念が、右翼テロの温床を形づくった。

(イラスト:茂本ヒデキチ)

 そんな暗黒の時代、次々と企業が倒産し、財閥の独占支配体制が強まるなか、したたかに生き延びたベンチャー経営者がいた。

 山下亀三郎、「山下汽船(合併を経て、現在は商船三井に吸収)」の創業者だ。日本一の傭船主となり、「海運王」と呼ばれた男である。

 明治以降、海運界は、政府の手厚い保護を受けた日本郵船と大阪商船が先導して発展した。明治政府の立役者・大久保利通が、三菱の創業者である岩崎弥太郎に「御用船」の特権を与えたことが、その始まりとされる。郵船と商船の二大船社は、政府から多くの船の払い下げを受け、定期航路の独占が認められ、補助金同様の貸付も受けた。

 花柳界で「社長」といえば郵船を経営する近藤廉平を指したというから、その存在がいかに図抜けていたか想像がつくだろう。

 この郵船と商船の二大船社体制が、第一次大戦の勃発で変化する。戦火が広がる欧州の船腹不足に乗じて、日本に「船成金」が続々と出現したのである。

 山下も、そのひとりだった。何しろ、トン当たりの傭船料が、大戦が始まって内地10倍、欧州方面15倍。船そのものの価格は20倍にはねあがっている。日本のGDPは、大戦開始年からわずか5年で3倍増。年率25%ちかくの経済成長を続けた。

 大バブルの到来だ。船の転売で大儲けをする成金が、肩で風を切り始める。
現代の不動産バブルのディベロッパー、ITバブルの経営者、金融バブルの主人公たちと、重なって見える……。

 船成金は、カネを湯水のごとく使った。常軌を逸した行動をとる。

バブル崩壊を生き残った「金ぴか」男に学ぶ

 たとえば、岡山生まれの船成金に「虎大尽」の異名を持つ山本唯三郎という男がいた。巨富を得た山本は、衆議院選挙に出馬するも、山谷虎三なる対立候補に敗れた。「虎」に負けた腹いせか、新聞記者たち31名を引き連れて朝鮮に渡り、猟師や人夫150名を雇ってほぼ1カ月「虎退治」を敢行したのだった。

 朝鮮では古来、虎は山神の使いとされ、大切に扱われてきた。それを手慰みで狩るのだからヒンシュクを買う。二頭の虎を仕留めた山本は、東京に戻り、帝国ホテルで晩餐会を開いた。大臣、陸軍大将に財界から渋澤栄一、大倉喜八郎ら二百名を招いてディナーを提供したのだが、虎肉のトマト煮は臭くて食えたものではなかったという。

 山本は、その後も越中フンドシ1万本を携えて欧米を漫遊し、現地で働く日系人に「これで気を引き締めくれ」と配って歩いたり、箱根で芸者を総揚げして裸行進をさせたりと、成金趣味をこれでもかとやり尽くす。

 だが……、第一次大戦の終結とともにバブルは終わった。
 そして、山本をはじめとする船成金のほとんどは、あぶくのように消え去った。
 生き残ったのは、あまりのあざとさに「泥亀」とも呼ばれた山下亀三郎……。山下は、山下汽船を郵船、商船に迫る船会社に育て上げ、世界恐慌の大嵐も乗りきったのである。

 亀三郎は、旧制中学を中退し、東京の法律学校に少し通ったが、ここも退学。東京と横浜の商店奉公から身を起こしている。人生の浮き沈みは数知れず。若い頃は失敗ばかりしていた。

 商才は人並み。学問もない。そんな男が、「じぶんは無学文盲で契約書もかけない」とバカのふりをしながら、「早耳」で情報を集め、人脈を築いてのしあがる。

 スタートは、平凡な、どこにでもいそうな商人にすぎなかった。
 だからこそ、かれの人生には、現代の閉塞感で縮こまるビジネス界で生き延びる手がかりが隠されているのではないか。

 天才の失敗は、歴史が検証する。凡才のサバイバル術は、実践で試される。
 これから始める山下亀三郎伝は、評伝の形をとりつつ、かれの「人間学」から現代にも応用がききそうなヒントを毎回抽出してみたい。

 第一回は、「人と飯を食え! 対面する場に宝あり」。

コメント4

「泥亀サバイバル~金ぴか偉人伝・2」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック