働く先輩女性に私は、20代の頃からいろいろ叱られてきた。
私が最初に叱られたのは、電話の返事のタイミングについてだった。留守電に先輩女性からのメッセージが残っていても、当時の私はすぐにはコールバックをしなかった。
「いつか入れなきゃ」と思いつつ、「今日だけは忙しいから許してもらおう」とか、「急用のメッセージじゃなかったし」とか思い、ずるずると日にちが過ぎていった。私は自分のルーズさに甘かった。
そんな時、先輩女性からガツンとやられた。
「電話があったら、その日か翌日には必ずコールバックする。それが出来ないならあなたとはつき合えません」
そのひとことに恐れをなし、私はそれ以降、すぐに電話をするようになった。
またある時には、名刺のことで叱られた。
パーティーや食事の席で、先輩が私を知人に紹介してくれることがあった。でも仕事先じゃないし、プライベートでお会いしている時なのだから、と、私はバッグに自分の名刺を入れていなかった。
相手から名刺をいただいても、「今日はあいにく、名刺を持ち合わせていませんので…(プライベートだから)」が、まかり通ると思っていたし、そう弁解もしていた。
しかし先輩は違った。
「いつどんな時に重要な人物との出会いがあるか分からない。自らチャンスを逃してどうする。名刺は常日頃から持っておきなさい!」
せっかく紹介してもらったご縁を無駄にした私は、先輩の言葉を素直に反省した。
先輩は私のファッションにも苦言を呈した。
「若いからって、流行の安い服ばかり着ていてはだめ。上質のものを身に着けなさい。そして靴に手を抜いてもだめ。料亭では仲居さんは靴を見て客を判断するのだから」
そんなこと言ったって、上質は高いし、高い服買ったら、靴なんかに手が回らないし…と、当時の私は不満がいっぱいだった。そもそも私はまだ流行の服が着たかった。
そんな普通の女の子としての新人時代を経て、気がつくと私はもうすっかりベテランの世代に入った。20代に叩き込まれたことは、すでに習得済み…のはずだった。
ある時、80代で現役で働く女性から食事のお誘いを手紙でいただいた。
「一度、お食事でもご一緒にいかがでしょう」という文面の通り、私はその女性とはまだ一度も2人きりでの食事の経験はなかった。知人の紹介で何度か宴席で同席したくらいだった。
80代の、働く女性の大先輩からのお誘いは私には恐れ多いものだった。どうしよう、返事しなきゃ…、と、思っているうちにまたたく間に日が過ぎた。もうこれ以上遅くなったら失礼だ、と、勇気を持って電話をした。
「ご連絡が遅れ、申し訳ありません」
すると予想外の言葉が返ってきた。