先行きが見通しにくい2009年。困難な時代には新しいリーダー像が生まれるはずだ。これまでも企業経営や政治に新しい時代を切り開いたリーダーがいた。そんな時代のリーダーを日経ビジネスが描いた当時の記事で振り返る。
(注)記事中の役職、略歴は掲載当時のものです。
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2007年10月1日号より
言葉を操り、価値観が違う社員や顧客の心をも動かす。
相反する2つの目標を追求する「二律背反」が経営の軸。
西田流マネジメントの根底には、「哲学者」の姿があった。
=文中敬称略(大竹 剛)

1943年三重県生まれ。70年東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、73年東芝のイラン法人に入社、75年東芝入社。84年から欧米でパソコン事業を担当。95年パソコン事業部長、97年取締役、98年常務、2003年専務、2005年6月社長に就任し現在に至る。(写真:村田 和聡)
7月18日午後1時半、西田厚聰は横浜市にある生産技術センターで、350人の技術者を前に熱弁を振るっていた。生産技術センターを訪れるのは、社長に内定してから早くも6回目となる。西田肝いりの直轄組織、イノベーション推進本部が主催する「イノベーション巡回」と呼ばれる活動の一環である。
冗談を交えて会場を沸かせながら、経営の状況から株価の動向へと話は流れ、イノベーションの話題に差しかかると一段と熱がこもった。
「イノベーションがなければ成長できない。そのためには『応変力』を高めてほしい。応変とは、状況の変化に対応し、自分たちも変わることだ」
例えば、ライバルの値下げに単純に値下げで対抗しては能がない。打ち負かすには、イノベーションで新たな対抗策を編み出すことが欠かせない。
西田は言葉の力を重んじる。社長就任時には「イノベーションの乗数効果」をキーワードに掲げた。経済学者のシュンペーターが主張するイノベーション理論とケインズの乗数効果理論を結びつけたもので、開発、生産、営業がそれぞれイノベーションを起こせば、足し算ではなく掛け算で効果が生まれるという。
だが、同じキーワードを使い続けると言葉の力は衰えてくる。そこで今年からは「応変力」を説く。「慧敏」という言葉も好んで使うようになった。「俊敏も機敏もスピードだけ。『慧』には状況をよく見極めるという意味がある」。単語1つにも徹底的に思いを込める。
社長就任前からこだわり続けてきた言葉がある。生産技術センターでの訓示では応変力に続いて飛び出した。
「イノベーションの本質は何か。それは『二律背反』の事柄を同時に達成することだ」
この「二律背反」という言葉にこそ、西田の経営哲学が凝縮されている。
「我が社は利益重視でシェアは追いません」「将来への先行投資と考え、まずはシェアを確保します」
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