「遙 洋子の「男の勘違い、女のすれ違い」」

あなたの仕事は「世間」が決める

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2010年2月26日(金)

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 職業やポジション、キャリアウーマンになるか専業主婦になるかなど、いったい人生とはひとりの人間がそれらを選べるものなのだろうかと思う時がよくある。

 私は大学を出る時、25歳まで芸能活動して後は結婚するつもりだった。だが、それからもう30年近く働き続け、結婚もしていない。

 30代、それならとシングルマザーになろうと思った。だが子供どころか愛犬ですら面倒を見られていない始末だ。

 最初、細々とでも女優活動をしようと思ったが、すぐ挫折し、タレントになり、今は執筆業だ。

 英語を喋れるような女性になりたい。一人の時間はピアノを楽しむ女性になりたい。そんな希望はことごとく頓挫した。

 最近は、“夢を見る”“計画をたてる”ということに無力感すら感じる。

 だいたい、自分の職業がいったい何なのか、そのアイデンティティですら確立しているかどうかも危ういものだ。

 そんな私にとって、羨ましいのが○○業という職業が自他共に確立している女性だ。

 ある女優としみじみ語ったことがある。主演で数々の作品をこなす女優だ。

 チョイ役しか経験してこなかった私には憧れの成功者だ。誰がどう見ても、ゆるぎない主演クラスのその女優が過去を振り返り言った。

 「専業主婦になりたかった。なろうと努力した。でも女優になった。女優になった時、脇をしっかり固める役で手堅く長く、重責を背負わずに済むポジションで生きようか、あるいは、主演を張り、しんどいけれど、その作品や共演者の全責任を背負うポジションで生きようかと考えたことがある。だが、結局、これしかなかった」

 私には憧れのポジションが、それを別にがむしゃらに目指したわけではない女性にとっては“これしかなかった”生き方になる。

 私から見れば、これほど主演女優というポジションがぴったりの女性もいないと思うほどの能力や器の持ち主でも、「脇役で生きようか、主演で生きようか」とまるでそれを選べるかのように若い時には迷っているということに、驚く。

 もしその時代に「どっちがいいと思う?」と聞かれたら、私は「あなたは絶対主役だよ!」と目をまるくして「ばかじゃないの?」と説得しただろう。

 それくらい、人は自分の職業やそのポジションを“選べるのでは”と錯覚している。

 この男性くらい社長業に向いている人はいないなぁと思う人に聞いてみたことがある。

 「社長になりたかったのですか?」

 「いいえ。なんか、ひょんなことでなってしまったんですねぇ…」

 働いてきて感じることは、「将来やりたい職業は?」と人に聞くことの無意味さだ。

 「努力すれば夢は叶う」という人に、聞いてみたい。

 私が目指したのは演劇だったというのに、なりたいと願ったことのなかった執筆が今の私の大切な仕事になっていることをどう説明できるのか。

 出版社では作家志望の若者たちが、原稿と夢と不安を抱いて目を輝かせているが、彼らもまた本当にふさわしい職業は何か、彼らにだって分かっていないはずだ。

 先日、スケートの金メダリストの荒川静香さんのドキュメンタリーを見た。彼女がやりたかったのはアイスショーだったが、彼女の意思とは別に、金メダルを目指す道しか彼女にはなかったということが明かされていた。主演女優同様、彼女もまた“これしかなかった”ということか。

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著者プロフィール

遙 洋子(はるか・ようこ)

遙 洋子

大阪府出身。タレント・エッセイスト。関西を中心にタレント活動を行う。東京大学大学院の上野千鶴子ゼミでフェミニズム・社会学を学び、その体験を綴った著書『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』(ちくま文庫)を執筆。これを機に、女性の視点で社会を読み解く記事執筆、講演などを行う。近著に『主婦たちのオーレ!』(筑摩書房)、『女ともだち』(法研)など。公式ウェブサイトはこちら



このコラムについて

遙 洋子の「男の勘違い、女のすれ違い」

時事問題を独自の視点で切り込むタレントでエッセイストの遙洋子氏が、男と女が食い違うワケをユニークな視点で解説していく。

【編集部から】
2010年4月から、遙洋子さんの新コラム「遙なるコンシェルジュ『男の悩み 女の嘆き』」が始まりました。こちらもご覧ください。

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