【編集部から】
2010年4月から、遙洋子さんの新コラム「遙なるコンシェルジュ『男の悩み 女の嘆き』」が始まりました。こちらもご覧ください。
最近私は2冊の新刊本を出した。『死にゆく者の礼儀』と『気難しい女性との上手な接し方』というエッセイだ。前者は老いと死を直視する生き方を提言したもので、後者はこの日経ビジネスオンラインのエッセイをヒントに、職場での管理職の悩み解決を願って書き下ろしたものだ。
私が趣味で続けているクラッシックバレエスタジオでのこと。
「近々本を出します」
「あらそう」
という先生と私との会話の直後からそれは始まった。
「遙さんが本を出します。買う人!」という掛声がレッスンの始まる度にスタジオに飛んだ。それは発売日まで毎週続いた。
「はーい」と手をあげながら皆で笑い合う光景に、愉快な会話以上のものを私は感じなかった。
ところが、実際発売されると、小学生から年配までの生徒たちがこぞって本を購入してくれ、私にサインを求めてくれた。
私の本が読みたくて購入した人はごく少数のはずだ。なんせテーマは「老い」と「職場」だ。小学生が手にするにはあまりに無理があった。また、対象も若干ずれている。「死を意識する人」や「現役ビジネスマン」が、クラッシックバレエレッスンに来られるだろうか。
ターゲットも、テーマも、あまりにも異なる人たちが、なぜ、本を購入してくれたのか。なぜ毎週のように掛声がかかったのか。その理由はひとつだ。
“気持ち”だ。
ああ応援してやりたい、という気持ちが掛声と購入を後押ししたのだ。不景気だ、消費しない若者が増えたとマスコミは騒ぐが、そこに“気持ち”があれば、人は買い物をしてくれる。小学生が、「『死にゆく者の礼儀』ください」と言う声を、私は感慨深く聞き入った。
こんな子供でも、人間社会の付き合い、というものをこうやって努めてくれている。申し訳なさと有難さをしみじみと味わった瞬間だった。
昔、私は自分が購入した物件の不良個所が気に入らず、販売担当者に苦情を言ったことがある。不良個所の修繕費用を私は求めたのだった。もちろん企業が容易に“不良”だと認めたり費用を出すとは私も思っていない。だが、だからといって泣き寝入りも嫌だった。
担当者は、予想した通りの回答を企業から持ってきた。当然私はそれを却下するということが繰り返された。私はその都度、「なぜ私が辛いかというと」という説明をした。
話す度に、私の気持ちがじんわりと担当者に届く感触はあった。だが、いくら担当者が感じ入ってくれても、企業が下す判断は別モノであることも理解できていた。
ところが数カ月後のある日、その担当者が自社企業に対してブチ切れた。
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