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お父さんが「眠れない」のは、心の問題ではない

自殺対策について精神科医ができること・計見一雄氏に聞く

  • 山中 浩之,計見 一雄

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2010年5月18日(火)

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 「我が国では、年間自殺者が3万人を超えるなど、『国民のこころの健康の危機』と言える状況が続いています」(2010年4月3日、厚生労働省「こころの健康政策構想会議発足式」リリースより)。3月には「お父さん 眠れてる?」というポスターがあちこちに貼られました。「2週間以上続く不眠は、うつのサインかもしれません」。あなたは、そしてあなたの親しい人は、よく眠れているでしょうか。

 この自殺数の異常な高止まりは、まさしく緊急事態です。日本で精神救急医療を立ち上げた精神科医、計見一雄さんに、この事態に対してなにかできること、知っておくべき事はなんなのか、伺ってきました。余談ながら、私は氏のべらんめぇな語り口が大好きなのですが(味わいたい方は『統合失調症あるいは精神分裂病 精神病学の虚実』などでどうぞ。この本は書名の印象に反してとても面白くて分かりやすい!)、今回は状況の深刻さを反映してか、静かで、迫力がありました。(日経ビジネスアソシエ 山中)

【おことわり】記事の内容、肩書き、リンクなどは掲載時のものです

計見 一雄(けんみ・かずお)

1939年東京都生まれ。千葉大学医学部卒業。医学博士。千葉県精神科医療センターの設立に参画、現在名誉センター長。公徳会佐藤病院(山形県南陽市)顧問。精神科救急医療という分野を立ち上げ、今も臨床の最前線に立つ。日本精神科救急学会前理事長
(写真:大槻純一、以下同)

山中(以下Y) 計見先生が書かれた『戦争する脳-破局への病理』を読んで、押しかけてお話を聞き、「日経ビジネス」に記事を載せさせていただきましたね(「硫黄島守備隊の強さ 上司は『休ませる勇気』を」(記事リンク ※「日経ビジネス」定期購読者の方限定です)。

 このとき「この10年で日本の自殺者は中高年男性を中心に1万人も増加した。その人数は、日清戦争の戦死者とほぼ同じ。精神科医に言わせれば、戦線はもはや崩壊しつつあるのです」とおっしゃった。あれからもう2年。状況はむしろ悪くなっているように見えます(自殺に関する詳しい情報は内閣府の自殺対策ホームページを参照)。

計見 自殺問題へのアプローチには、重要な視点が二つあるように思います。まず、日本文化は歴史的に自殺を受容してきたし、ときにはそれを賛美してきたこと。江戸時代の近松門左衛門による心中狂言や、歌舞伎の演目。幕末から明治では、多くの志士が自裁、西郷隆盛も心中未遂をしています(※相手は既遂)。

 明治天皇に殉じた乃木希典の自殺もありますね。

計見 大正から昭和でも、芥川龍之介の自殺、有島武郎の心中。戦争中の神風特攻や玉砕その他の「自殺強要作戦」とその称揚。この称揚は今も続いているようです。「この辺でケリをつけよう」と、生き延びるための持久戦をやめて集団自殺的攻撃に転じる。その種の「潔さ」は今も否定し切れていない。

 う~ん、戦前は、体制側の問題も大きいんじゃないでしょうか。

計見 じゃあ戦後を見てみよう。まず太宰治の二度にわたる心中事件。1回目は片割れだけ死ぬ。2回目は玉川上水に入水自殺。そして彼の人気はその死に方が支えている部分もあるように見えます。今もその命日には「信者がお参り」しています。三島由紀夫も同様だ。いまだに徹底的な批判は為されず、むしろ賛仰されていないか。

 うーん……それは一種の「ファン心理」じゃないでしょうか…。

計見 だったら渡辺淳一の『失楽園』。

 あっ、そこに来ますか。

計見 あれは有島(武郎)の心中事件を下敷きにした、情死自殺賛美の側面を強く持つ。その後の同じ作者の小説でも、性交中に女性を殺害してそれを正当化する描写がありました。あれが、多くのビジネスマンが読む新聞で大人気になり、映画にもなった。ああ、連載はY君のところだったね。

 先生、ご存じでおっしゃっているでしょう。それに「うち」じゃありません。親会社です。何卒、穏便にお願いいたします。

計見 いや、嫌味を言ってる訳ではありません。働き盛りの日本の男性が、こういう小説を熱く支持することの興味深さを指摘したいだけです。ざっと挙げたけれど、日本人と日本文化への、こうした側面からの批判的検討、そしてそれが現代の自殺にどういう影響を及ぼしているか、そこに対しては精神科医や精神科医療関係者ではない人々からの教説を求める必要があるように思います。例えば、アジア諸国の社会学者や文化人類学者の意見とか。はたから見たら「ちょっと、ヘン……」かも知れません。

精神科医が自殺予防に役に立てるとしたら

計見 もうひとつは、精神科医、精神科医療が自殺予防に有効な手段を持っているのか? という視点です。

 まさか、持っていないのですか?

計見 「ある」としても、自殺予防全般への寄与ではあり得ない。自ら自殺症例を幾人持った経験があるかにもよりますが、私の経験則では「精神科医は自殺予防はできない」という覚悟がなければ、精神科医という仕事にはかかわれないと思う。

 手段はあるが、万能ではないし、その限界を認識しておくべきだと。

計見 もし「精神科医は自殺予防に寄与できる」というなら、その守備範囲を明確化すべきだ、と思います。具体的に言えば、 自殺の危険が迫っていることを本人が自覚できるような「自己評価マニュアル」を作成してみるという試みは可能かも知れない。

 green、yellow、 red zone が「一目瞭然」で分かるようなもの。 4~5軸のスケールで、4段階評価程度のもの。レッドゾーンに入ったら「もうすぐ自殺しますよ」と告げる警報装置。まだまだ未完成だけど試案は作ってみました。これを君のところで紹介してもらえますか。

 了解しました! 記事の最後にいれておきます。そして、この警報に思い当たったら、レッドになる前に精神科医を受診すると。

計見 君のその発想ですけど、「自殺につながるような精神病はメンタルな病気で、早期受診を勧めれば防止できる」ということですよね。

 違うんでしょうか?

コメント20件コメント/レビュー

最後で、周りの目より、自分を大事に すると精神科はひまになる。つまり、周囲の目を気にする人が うつになりやすいという解釈ができます。これについては、最初からの文脈(自殺を賛美するような文化)とつながりがなく、唐突な気がするのですが、どうでしょう。周囲の目を気にすることとうつの関係をつづきで説明してほしいと思いました。(2011/06/27)

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最後で、周りの目より、自分を大事に すると精神科はひまになる。つまり、周囲の目を気にする人が うつになりやすいという解釈ができます。これについては、最初からの文脈(自殺を賛美するような文化)とつながりがなく、唐突な気がするのですが、どうでしょう。周囲の目を気にすることとうつの関係をつづきで説明してほしいと思いました。(2011/06/27)

実に解り易くまた、自分の経験と下山時に学んだ事が間違いではないと確信できた記事でした。日本は敗戦以降、物質的には高度に文明化されましたが精神的には戦中迄の狂気を今も引きずっている社会なんですね。最近は医学界やNPOからの突き上げによって政府も対策に重い腰を挙げた様ですが発表される内容は殆どが陥ってしまった後のケアに終始しているばかりで根本原因である社会の歪みには触れられていないのが残念です。法的には取締法規である労基法・安衛法がありますが実際には機能を果たしておらず、検挙取締りや罰則の強化も含めた法整備と労基署の機能強化、相談窓口の増設も必要でしょう。K泉改革で異常な位に肥大した経営側等の権力行使を食い止める事が急務だと思われます。(2010/06/29)

精神の実体を信じないとのコメントは誤解が生じるのではと思いましたが、総じて理解しやすい内容でした。■精神主義などの肉体を軽んじる二元論は誤りであり、精神と肉体は不可分の一体であると思います。精神という臓器が存在しているわけでもないでしょうし。ただ、言葉の定義として精神という言葉、心という言葉も存在しますので、その辺の扱いについてはもう少し丁寧さがあっても良かったのでは、と思いました。■心や精神の実体がないと言ってしまうと、空虚な唯物的な思想を連想してしまうからです。■然し多くの人は、訳の分からない「精神」に振り回されているのでしょうから、こうした文章は刺激的で有益だと思われます。(2010/06/16)

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