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熊谷 徹(くまがい・とおる)

在独ジャーナリスト

熊谷 徹

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境 問題を中心に取材、執筆を続けている。著書「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリズム奨励賞受賞。

◇主な著書
ドイツ中興の祖ゲアハルト・シュレーダー』(日経BP社) 2014
なぜメルケルは「転向」したのか・ドイツ原子力40年戦争の真実』(日経BP) 2012
脱原発を決めたドイツの挑戦・再生可能エネルギー大国への道』(角川SSC新書) 2012

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

最近のトピックス

 相変わらず、ドイツの脱原子力と再生可能エネルギー拡大政策について、調べたり書いたりしています。このテーマについては、2000年から取材、執筆して来ました。日本からこのテーマについての講演の問い合わせが多く、エネルギー問題への関心の高まりを感じます。  脱原子力は、ドイツが進めているエネルギー供給構造の根本的な転換(エネルギー革命)の一部にすぎません。これからも、エネルギー革命には紆余曲折があると予想されます。長期的に定点観測を続けようと思っています。

 もう一つのテーマはユーロ危機。ユーロについてはエネルギー問題よりも関わりが長く、1990年にドイツに来た時から記事を書いてきました。当時からの蓄積が、役立っています。ユーロ危機は沈静化しているように見えるかもしれませんが、単に通貨だけでなく欧州諸国の南北格差に関する深刻な問題なので、今後も尾を引くでしょう。

 今年は久しぶりに、政治の混乱が続くイタリアに行ってみたいと思っています。私の自宅からイタリア国境までは、車で3時間で行けます。車で簡単に旅行できるのが、欧州大陸の醍醐味です。シェンゲン協定のおかげで、国境の検査も全くありません。20年前には考えられなかったことです。

 去年はアジアへの出張も多い年で、日本に3回、北京に1回、タイに1回、香港に3回行きました。12月には、香港で4週間働きましたが、アジアの面白さにもとりつかれています。

熊谷徹のヨーロッパ通信

独選挙で「過去との対決」を否定する極右が躍進

2017年10月23日(月)

メルケル氏は2005年の首相就任以来、最大の試練に直面している。(筆者撮影)

 9月24日のドイツ連邦議会選挙は、「メルケル時代」の終わりの始まりだ。この選挙は、2つの意味で、戦後ドイツの歴史の中の「区切り」となる。

メルケル首相の蹉跌

 一つは、「ムッティー(お母さん)」と国民から呼ばれて親しまれてきた人気首相の凋落である。この選挙は、メルケル首相の難民政策に対する不信任投票だった。有権者は同首相をはじめ、大連立政権を構成していたキリスト教民主同盟・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)の得票率を大きく引き下げて、厳しく罰した。SPDの得票率は第二次世界大戦後最低の水準まで落ち込み、CDU・CSUの得票率も戦後2番目に低い水準だった。

 2015年の9月にメルケル首相は、人道的な理由から、ハンガリーで立ち往生していたシリア難民ら89万人を受け入れる超法規的措置を取った。同首相は米国や国連から、「欧州の良心を守った」と絶賛された。しかし国内では、「ドイツ政府は社会秩序のコントロールを放棄したのか」という不満と、治安悪化に対する懸念が高まった。特に連邦政府から難民を割り当てられた市町村の首長たちからは「これ以上難民を受け入れられない」という悲鳴が上がった。旧東ドイツでは、難民が到着すると抗議デモを行う人々もいた。

 メルケル首相は選挙演説を行う際にしばしば聴衆から「裏切者」と罵倒されたが、難民政策について有権者を説得する努力を怠り、持ち前のポーカーフェースで通した。彼女は、難民政策について批判されると、「困った人々を助けたことについて批判されるのならば、ドイツは私の国ではない」と開き直った。

欧州の女帝がレームダックに

 メルケル首相は9月24日の夜、惨憺たる選挙結果が明らかになった直後にベルリンの党本部で行った演説でも反省の色を見せなかった。そして、「我々は第1党になるという目標を達成した。我々がやってきたことは、全て正しかった。何一つ修正する必要はない」と述べた。CDUの若い党員たちは、この言葉に歓声を上げたが、多くのドイツ市民は、この態度に「現実を無視する引きこもり」のような傲慢さを感じた。

 10月15日にニーダーザクセン州で行われた州議会選挙でも、SPDが得票率を4.3ポイント伸ばして第1党の座を守ったのに対し、CDUは得票率を2.4ポイント減らして敗北した。この州でも「ドイツのための選択肢(AfD)」は初の議会入りを果たし、同党はドイツの16州の議会のうち、14州で議席を持つことになった。この選挙結果が伝わると、ベルリンのCDU本部にはまるで通夜のような静寂が広まったという。

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