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片瀬 京子(かたせ・きょうこ)

フリーライター

片瀬 京子

1972年生まれ。東京都出身。98年に大学院を修了後、出版社に入社。雑誌編集部に勤務の後、2009年からフリー。

◇主な著書
誰もやめない会社』(日経BP社) 2012
ラジオ福島の300日』(毎日新聞社) 2012
広島カープがしぶとく愛される理由』(日経BP社) 2016

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

「基礎研究」の人々

火をつけろ、幕を引け、すべては次の研究のため

2017年8月28日(月)

 ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典氏が、その重要性を強調した「基礎研究」。しかし、それに携わる人々は「研究所の奥で日々ひたすら研究にいそしんでいる」イメージで、実像になかなか触れる機会がありません。
 例えばメーカーの「商品開発」に関しても、脚光を浴びるのはヒットアイテムの商品化を手掛けた「商品企画」部門で、その基盤となった基礎研究にはなかなか光が届きません。
 このコラムでは、メーカーの研究所で働く「基礎研究の人々」にお話をうかがっていきます。なぜメーカーで基礎研究をすることを選んだのか、なぜその研究テーマを選んだのか、日々どんな研究生活をしているのか、手応えや悩みは? などなど、知られざる生態に迫ります。
 今回訪れたのはサントリーワールドリサーチセンター。2015年5月、京都府精華町に新しい研究開発拠点として作られた「基礎研究の館」です。

 サントリーは2004年からR&Dの表彰制度を設けているが、その第1回MVPに選出されたのが中原光一さんだ。現在は研究所を率いる立場にある中原さんには、映画『コラテラル・ダメージ』を見て、頭の中にあったものが映画の中にあったものと思いがけずつながり、「この映画を見たのは、このためだったのか」と腑に落ちた経験がある。

サントリーグローバルイノベーションセンター 研究部 上席研究員 博士(農学) 中原光一さん(写真:行友重治、以下同)

 1988年に入社以来、取り扱いが難しいがゆえに、教科書がほとんどなく先輩研究者もあまりいなかった烏龍茶に含まれるポリフェノールの研究をしてきた中原さんは、10年近く過ぎたところで“超臨界水”に出合った。

「酵素いらないじゃん」

 液体の水は温度が0度で固体になり、100度で気体になるが、これは気圧が1気圧の場合の話。高所でお湯を沸かすのが難しいのは、気圧が低いからだ。気圧が上がりすぎても、1気圧のときには見られないような現象が起こる。気圧を「22.1MPaより高い圧力をかけると、0.3くらいの、ものすごく濃い水蒸気、高圧の水のガスになるんです」と中原さんは言う。生活環境では、空気中の水の密度は何万分の1という薄さなので、かなり濃厚な水蒸気である。

 「あ、これがあるなら酵素いらないじゃん、と思ったんですね」

 この説明だけで理解可能な人は中原さん級だ。
 超臨界状態の水では、水(H2O)が水素イオンと水酸化物イオンに分離される。水素イオンは陽イオン、水酸化物イオンは陰イオンだ。これらが活発に動き出して、イオン状態が増大するのだ。

 「ということは、でんぷんに圧力をかけると糖になるということなんですよ。デンプンを糖に分解する酵素にアミラーゼというものがありますが、これはつまり、酵素を使って加水分解をしていることになるんです。私はそれまで、デンプンを糖にするには酵素が必要だと思っていた。でも、超臨界水のようなものを持ってくると、酵素がいらない。ワクワクしますよね」

 そのワクワクを中原さんは烏龍茶にぶつけた。

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