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石田 潤一郎(いしだ・じゅんいちろう)

大阪大学社会経済研究所教授

石田 潤一郎

1972年生まれ。2000年ウィスコンシン大学経済学博士(Ph.D.)。 2009年大阪大学社会経済研究所准教授.2010年から現職。専門分野は契約理論、人事の経済学、労働経済学。



※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

「気鋭の論点」

経営者に知ってほしい、成果主義が失敗する理由

2013年5月31日(金)

日経ビジネス別冊「新しい経済の教科書2013~2014」が本日、発売されます。メーンテーマは「アベノミクスの先を読む」。冒頭にはジャーナリスト・池上彰氏と星岳雄米スタンフォード大学教授の対談、さらには「制度と貧困の経済学」「高齢未来社会の働き方」などをテーマに据え、総勢30人以上の寄稿、および特別インタビューを収録しました。本コラム「気鋭の論点」からも20本、収録されています。ぜひお読みください。

 企業への成果主義の導入が叫ばれて久しいが、そこから聞こえてくる評判は必ずしも芳しいものとは言えないようだ。一部では、成果主義は日本の企業風土にはそぐわないのではないかという懸念すらある。なぜ成果主義は失敗するのだろうか。

 こうした問いに答えるためには、そもそも「成果主義」が一体何を意味しているのかを明らかにする必要がある。もし成果主義を「企業に貢献をした労働者を適切に報いる」という意味で用いるなら,そうした意味での成果主義は企業にとって絶対に不可欠だ。貢献と報酬のバランスがとれていない企業が従業員に適切なインセンティブを与えることができないのは明白であろう。

 しかし近年取り沙汰される成果主義と呼ばれるものは、ここでの意味よりはもう少し狭く、目に見えやすい「短期」のかつ「個人」の成果と報酬を明確に連動させるインセンティブ体系を暗黙のうちに指しているように見受けられる。以下では、成果主義をこの狭い意味で定義し、こうした狭義の成果主義がもたらす潜在的な問題点について議論したい。

良い成果主義と悪い成果主義:マルチタスク問題

 良い成果主義というものがあるとして、それではその良い成果主義と悪い成果主義の線引きは一体どのような要因によって決定されるのであろうか。この問題を理解するカギの1つが経済学で「マルチタスク問題」とよばれる視点である。

 マルチタスク問題とは一言でいうと、本来、複数の任務を負っている労働者(代理人)に対して、報酬を目に見えやすい貢献についてだけ連動させることにより引き起こされる努力配分の歪みの事を指す。成果の見えやすい任務にあまりに傾倒することによって、逆に成果の見えにくい任務が疎かになってしまう問題といってもよい。成果の見えやすさとその任務の重要性には必ずしも相関があるわけではないので、こうしたトレードオフが過剰な努力配分の歪みをもたらす場合、いわゆる成果主義は結果として全体の効率性を押し下げる要因となる。

 このような複数の任務の間の努力配分が問題となる例は枚挙にいとまがない。最も分かりやすい例は、製造業における生産量と質のトレードオフであろう。分かりやすいからと「生産量」に過剰に依存したインセンティブ体系を取れば、質を犠牲にして生産量を増大させるインセンティブを相対的に高める。交通機関における輸送時間と安全のトレードオフもまたその一例だ。運行スケジュールの乱れは結果として目につきやすいが、それを守るために冒すリスクは(重大事故につながらない限りは)目につくことはないため、過剰なスケジュール厳守のインセンティブは、乗客の安全を脅かす行為を助長する可能性を生み出すであろう。同様に、教師の評価が学力テストの結果のみに依存していれば、数値化できない人格教育が疎かになるであろうし、プロ野球選手の年俸がホームランの数のみに依存していれば、状況に応じたチームバッティングは減少するであろう。

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