• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

丸山 士行(まるやま・しこう)

オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学 リサーチフェロー

丸山 士行

2007年、米ノースウェスタン大学経済学博士(Ph.D.)。専門は医療経済学・応用ミクロ経済学。「International Economic Review」、「Health Economics」、「Health Policy」などに論文を掲載。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

「気鋭の論点」

「高齢化社会だから医療費が増える」のウソ

2013年8月19日(月)

 日本の医療保険制度は国際的に評価が高かった。平均寿命は世界1位である一方、国民医療費の対GDP(国内総生産)比は経済協力開発機構(OECD)諸国の平均以下、皆保険制度に基づく公平性と医療へのアクセスの容易さも、世界的にとても優れたものであった。しかし高齢化が進展し、国の債務が世界最悪水準に積み上がる中、医療費にも抑制圧力が強く働きはじめた。窓口での自己負担金は年々引き上げられ、保険料の上昇に伴い無保険者が増え始め、医療の現場は様々な歪みや困難に直面し疲弊している。

 この状況を改善すべく、内閣に昨年末設置された社会保障制度改革国民会議では、年金・介護・少子化に加え医療が重点的に取り上げられ、この8月に最終報告書が取りまとめられた。限られた時間の中、政治家と利害関係者を入れずに、短期的即効性のある改善案の数々を踏み込んで明記したことは十分に評価したい。しかし他方で、「長期的なビジョン」の重要性は会議でも再三指摘されたものの、どのような論点があり、どのような方向性を目指すべきなのかについては具体的な議論がなかった。言うまでもないことだが、医療は国民の日々の生活を大きく左右する。日本の医療保険制度の将来を考える際、国民一人ひとりが知っておくべき最も重要な論点とは何なのか、本稿ではそれを解説しよう。

高齢化していなくても医療費は上昇している

 その論点を説明するにあたり、前提となる知識が2つある。「医療需要」、そして「保険と再分配の区別」である。順に説明しよう。まず医療需要についてであるが、知っておくべきは、「所得に占める医療支出は国が豊かになるにつれ上昇を続けてきたし、そして今後も上がり続けていくだろう」という長期トレンドである。図に示すとおり、洋の東西を問わずGDPに占める医療費の割合は増加し続けている。多くの国が医療制度改革で頭を抱えている所以である。

国別に見た総医療費の対GDP比率(OECD Health data 2013より作成)

 なぜ、医療費の対GDP比率は上がり続けているのだろうか。その理由としてしばしば挙げられるのは、高齢化の進展である。しかし図から明らかなように、この上昇トレンドは世界中で長期に渡り普遍的に観察されるものであり、高齢化が主要因ではない。上昇トレンドの真の要因は所得効果である。所得効果は経済学の用語で、所得の増加がある財の消費量に与える影響のことを指す。所得効果は財によって異なり、例えば、年収が1割増えた場合、旅行の需要は増え(正の所得効果)、カップ麺の需要は減る(負の所得効果)という具合である。

 これに関して近年の実証研究が明らかにしてきたのは、健康という財については強い正の所得効果が働くということだ。健康が他の財と違うのは、健康は人生の何を楽しむ上でも重要である点、さらに人生の期間そのものを長くしてくれるという点にある。豊かになった結果、「健康はほどほどにして他のことを楽しもう」などとは誰も考えず、むしろ貧乏なときにもまして健康にお金を回そうと考えるものなのである。

続きを読む

著者記事一覧

もっと見る

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

意外なことに、伝統的な観光地が 訪日客の誘致に失敗するケースも 少なからず存在する。

高坂 晶子 日本総合研究所調査部主任研究員