吉田 忠則

吉田 忠則

日本経済新聞社編集委員

ニッポン農業生き残りのヒント 「悪い人」にならなければ改革できない

異端の農協マンが語る「減反廃止」(下)

  • 2018年06月15日(金)

 異色の農協組合長、小田嶋契氏の取り組みを前回紹介した。コメの生産調整(減反)廃止1年目の今年、多くの産地が様子見を決め込む中で、小田嶋氏が率いる秋田ふるさと農業協同組合(横手市)は、主食のコメの大幅な増産に踏み切った。「無謀な増産」と懸念した農水省から真意を問われた小田嶋氏は、卸からスーパーにいたる詳細な販売計画を示し、懸念を払拭した。背景には時間をかけて培った売り先との信頼関係があった。今回はその続編。

「生産振興が農協の任務だ」と話す秋田ふるさと農協の小田嶋契組合長(横手市)

 前回を読まれた読者の中には、小田嶋氏の発言を過激と感じた人もいるかもしれない。そして、ひるまず信念を貫く言動は、相手が政治家でも鈍ることはない。以下は、2016年11月2日に自民党本部で開かれた農林関係議員の会合での発言。当時の部会長は小泉進次郎氏だ。

「先ほどから全農改革の話が出ているが、今までと同じでいいというところはどこにもない」

 小泉氏が主導した農業改革の最大の標的は農協の上部組織、全国農業協同組合連合会(全農)だった。改革派の組合長として知られる小田嶋氏の上の発言は、全農批判に同調するもののように思われた。だが、小田嶋氏はこう続けた。

 「産業振興は行政の大きな役割で、それには協力していくべきだと思っているが、農業をどうすべきかという話をするのであれば、我々民間を変えるよりも、法律や制度を根本的に見直すことが必要ではないか。政治家は法律や制度を作るのが仕事で、民間をいじくりまわすことは仕事ではないと思っている」

 この発言に対し、小泉氏は気色ばんで「ペンをなめて法律をつくるだけが政治家の仕事かと言われれば、そうではない」と反論したという。

 前回の内容に照らせば、全農の肩を持ち、おもねるのが真意でないことがわかる。ふるさと農協は全農と敵対はしていないが、全農に頼り切るような仕事はしていないからだ。当時、小田嶋氏に発言の意図を聞くと、「みんな小泉氏に呼ばれると、うれしくて舞い上がる。そこに違和感を持った」と話した。ちなみに、小田嶋氏は小泉氏のことを肯定的に見て期待を寄せている。それでも場の空気に同調しないのは、小田嶋氏らしいふるまいと言えるだろう。

 小田嶋氏は減反廃止を通し、農政や農協に対して何を感じたのか。今回は少しテーマを広げてインタビューをお届けしたい。

    著者プロフィール

    吉田 忠則

    吉田 忠則(よしだ・ただのり)

    日本経済新聞社編集委員

    1989年京大卒、同年日本経済新聞社入社。流通、農政、行政改革、保険会社、中国経済などの取材を経て2007年より現職。2003年に「生保予定利率下げ問題」の一連の報道で新聞協会賞受賞。

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