吉田 忠則

吉田 忠則

日本経済新聞社編集委員

ニッポン農業生き残りのヒント ソフトバンク系の農業サービス阻む「疑心暗鬼」

農家に必要な「村の論理」の克服

  • 2017年11月17日(金)

 今回はちょっとマニアックな話題から入りたい。農薬や肥料、農業機械、飼料などのことを「農業資材」と呼ぶ。これまで比べるのが難しかった複数の業者の農業資材の値段や品質をウェブ上で確かめ、農家がよりよいものを選ぶためのサービスが7月に登場した。ソフトバンク・テクノロジー(東京・新宿)が提供する「AGMIRU(アグミル)」だ。

 サービスが誕生した背景には、自民党の前農林部会長の小泉進次郎氏の存在がある。全国農業協同組合連合会(全農)の事業の見直しで注目を集めた小泉改革には、こういう波及効果もあった。そのことは後述する。

「出会いの場」に徹する

 アグミルを使った取引は次のように進む。まず生産者がどんな資材が欲しいのかを入力し、資材の販売会社が細かい条件をウェブ上で生産者に尋ねる。生産者は質問に答え、販売会社はそれを受けて、どんな資材を提供できるのかを提案する。生産者は複数の提案を吟味し、どこから買うかを決める。

アグミルを使った取引の流れ(画像提供:ソフトバンク・テクノロジー)

 当たり前のサービスのように見えるが、これまでいろんなメーカーや販売会社の資材を見比べ、より有利なものを買うことができる仕組みがなかった農業の世界では画期的。農場を広域展開している法人は、地域や業者によって似たような資材の値段が違うことに気づいているが、新たな調達先を探す努力をして来なかった生産者にとっては活用次第で大きな武器になる。

販路拡大のメリットを訴えるアグミルのイラスト(画像提供:ソフトバンク・テクノロジー)

 一方、販売側にもメリットはある。まず、資材の新たな売り先の開拓につながる。ウェブを使うので人手を使わず、営業の効率を高めることにも役立つ。とくに最近の若い農家はインターネットで取引することに慣れているので、将来の担い手を発掘するためのきっかけにもなるだろう。

 ソフトバンク・テクノロジーがシステムを作るうえで力を入れたのが、売るほうと買うほうのコミュニケーションを重視したことだ。ナショナルブランドのカメラなら、同じ商品を値段だけで比べ、安いほうを選ぶこともできるだろう。だが農業資材は似ているように見えてもモノによって効能や機能に差があることも多く、それだけにアフターサービスが意味を持つ。

 値段だけを強調し、安い資材に生産者を導くシステムではなく、生産者のリクエストに業者が応える「提案型」の仕組みにしたのも、そうした事情からだ。システムには決済機能を持たせず、ウェブは「出会いの場」に徹し、後は生産者と業者が直接会って商談を進めることも可能にした。試着してみないと、購入を決断しにくい服や靴などと同じだろう。

    著者プロフィール

    吉田 忠則

    吉田 忠則(よしだ・ただのり)

    日本経済新聞社編集委員

    1989年京大卒、同年日本経済新聞社入社。流通、農政、行政改革、保険会社、中国経済などの取材を経て2007年より現職。2003年に「生保予定利率下げ問題」の一連の報道で新聞協会賞受賞。

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