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山田 泰司(やまだ・やすじ)

著述業/EMSOne編集長

山田 泰司

1988~90年中国山西大学・北京大学留学。1992年東洋大学文学部中国哲学文学科中退。1992~2000年香港で邦字紙記者、1997年の香港返還はもとより、香港市民の暮らしに焦点を当てた取材を重ねた。2001年の上海在住後は、中国国営雑誌「美化生活」編集記者、月刊誌「CHAI」編集長などを経てフリーに。この間、カルチャー、経済を中心に中国に生きる人・モノの取材を続けてきた。2010年からは、EMS(電子機器受託製造サービス)企業・市場に特化した情報サービスを提供するEMSOneのニュースサイト編集を担当、編集長も務め現在に至る。NHKラジオ海外リポーターは1998年から。日経BP社が製造業/ハイテク産業に携わる技術者・研究者・製品企画者に向けた総合技術情報サイト「Tech-On!」に2011年5月から「上海発 EMS通信」連載中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

中国生活「モノ」がたり~速写中国制造

中国の青年が金正恩に感服する意外な理由

2017年6月29日(木)

(写真=KCNA/新華社/アフロ)

 新聞で、雑誌で、テレビで、ラジオで、ネットの記事で、ツイッターで。日本において、「ストレス」という文字を目にし耳にしない日は1日たりともない。ただ、肉声で「ストレスがひどくて」と誰かが話しているのを実際に聞く機会というのは、意外に少ないものだ。例えば職場や学校で「実はストレスが……」と同僚や同級生に打ち明けるとすれば、それはストレスが相当な程度にまで進んでしまった時ではないだろうか。10代や20代の子供や学生であれば、「だりぃ~んだよ~」「やってらんね~よ~」というのと同じ調子で「まじストレスやべぇ~」ぐらいは言うだろう。ただ、大人になると、ストレスを感じていてもなかなか人前でそれを公言はしないものだ。

 翻って中国。ストレスのことを中国語で「圧力」と書く。発音は「ヤーリー」だ。「ストレスがひどい」は「圧力很大」で「ヤーリーヘンター」と発音する。中国ではこの「ヤーリーヘンター」を肉声でつぶやく声を聞かない日は1日たりともない。職場で、食事に入ったレストランで、休憩に立ち寄ったカフェで、地下鉄を待っている駅のホームで。どこにいてもどこからともなく、友人に、同僚に、電話の相手に「ヤーリーヘンター」と話している声が耳に入ってくるのである。

 ストレスを感じる内容については、日本も中国もそう変わらない。仕事のこと、上司のこと、家族関係、家のローン等々。だから、中国人がストレスを感じている問題については、共感できることは多い。ただ一方で、上海で働き始めて4、5年のころまで特に共感できなかったのは、まるで口癖のようにストレス、ストレスとわめき愚痴をこぼすその態度だった。特に会社勤めをしていたころは、同僚や部下がさして難しくも複雑でも期限が差し迫ってもいない仕事をしながら、「ヤーリーヘンター」を連発するのを見て、「まあ分かるけど、いちいちストレス、ストレス言わずにやれよ、大人なんだからさ」と心の中で何度つぶやいたことだろう。

 ただ、中国での生活が長くなってくると、すぐに愚痴をこぼすのは、ストレスを極限までためないための知恵なのではないかと思い始めた。それに気付いたのは帰省先の日本でである。当時は年に1、2回しか日本に帰省しなかったのだが、東京ではJRや地下鉄のホームで、スーツに身を固めた中年の男性が人目をはばからずに号泣していたり、1点を見つめてブツブツつぶやきながら歩いていたりするのに毎回のように遭遇した。大の大人が人目もはばからず泣くほど追い詰められてしまうのは、まだ大丈夫、まだ耐えられる、と思ってストレスをため込むうちに限界が来てしまっているのではないかと思った。

 そして、痛ましい姿になんともやり場のない気持ちを抱えながら、そういえば、中国で大人の男がストレスをためて泣いている姿に遭遇したことなどないということを思い出した。それは、日本の、とりわけ東京のサラリーマンがより屈折したストレスを抱えているという事情もあるのだろうが、一方で、中国人のように早い段階でストレスを抱えていることを公言するのは、こまめにガス抜きをすることで、取り返しのつかないところまでストレスを蓄積しない効果もあるのではないかということを考えた。それ以来、中国の大人がストレスを口にすることを私は少なくとも否定はしなくなった。

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