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山田 泰司(やまだ・やすじ)

ノンフィクションライター

山田 泰司

1988~90年中国山西大学・北京大学留学。1992年東洋大学文学部中国哲学文学科中退。1992~2000年香港で邦字紙記者、1997年の香港返還はもとより、香港市民の暮らしに焦点を当てた取材を重ねた。2001年の上海在住後は、中国国営雑誌「美化生活」編集記者、月刊誌「CHAI」編集長などを経てフリーに。この間、カルチャー、経済を中心に中国に生きる人・モノの取材を続けてきた。2010年からは、EMS(電子機器受託製造サービス)企業・市場に特化した情報サービスを提供するEMSOneのニュースサイト編集を担当、編集長も務め現在に至る。NHKラジオ海外リポーターは1998年から。

◇主な著書
食いつめものブルース 3億人の中国農民工』(日経BP) 2017

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

中国生活「モノ」がたり~速写中国制造

中国には優秀な人材を吸い上げる仕組みが必要

2018年2月23日(金)

 哲学者で『街場の中国論』をはじめ多くの著書を持つ内田樹さんにお聞きする最終回。今回は、憲法改正について、メディアの在り方について、そして今後の中国について、おおいに語ってもらった。

(前々回の記事「内田樹氏に改めて聞く『街場の中国論』」から読む)

(前回の記事「中国に国境線の概念なし、そう理解して付き合う」から読む)

内田 樹(うちだ・たつる)
1950年東京都生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。神戸女学院大学文学部助教授・教授を経て2011年に退職。現在、神戸女学院大学名誉教授。京都精華大学客員教授。昭和大学理事。神戸市内で武道と哲学のための私塾「凱風館」を主宰。合気道七段。執筆活動全般について第三回伊丹十三賞を受賞。主な著書に『ローカリズム宣言』(デコ)、 『街場の天皇論』(東洋経済新報社)、『アジア辺境論 これが日本の生きる道』(集英社)、『増補版 街場の中国論』(ミシマ社)など。(写真=大亀京助、以下同)

山田:ここにきて日本政府が一帯一路に、急に興味を見せ始めたみたいなことを言っているんですけれど、どのように思われますか。

内田:アメリカが動き出したので、それに追随しているだけです。日本には独自外交なんてないですから。

山田:安倍晋三首相がアメリカのちょっと嫌がることをしているのかなとも思ったんですけど。

内田:そんな根性ないですよ。アメリカが一帯一路に興味を示したので、じゃあ、ビジネスチャンスだからうちも一枚噛もうということでしょう。日本には外交戦略がないんです。主権国家としての誇りがないのです。

山田:安倍さんの話が出たので、憲法改正についてお聞かせください。日本の改憲については、中国も当然注目していると思うんですけれども、年頭で安倍さんは、「今年は改憲について国民的な議論を一層深めていく年にしたい」と言っていました。そろそろ改憲の具体的なスケジュールを決めたいのでしょう。内田さんは、『街場の天皇論』の中でもお書きになっていますけれども、アメリカは安保法制ができたんだから改憲まではいらないと感じていると。

内田:「ジャパン・ハンドラー」の中には改憲を梃子にして、日本の再軍備を進め、自衛隊を米軍の「二軍」にして、兵器の大量購入をさせようという功利的な考え方をしていた人もいたと思いますけれど、議会では改憲に好意的な人はむしろ少ないんじゃないですか。

 一つはとにかくまず、日本国憲法が首相が言うように「押し付け憲法」だからです。アメリカが占領期に、独立宣言とか、人権宣言とか、合衆国の統治原理を託して書き上げた模範答案的な憲法なわけです。天皇制についての条項を除くと、アメリカのニューディーラーたちのリベラルな政治的な理想がそこに書き込まれている。自民党の改憲草案はその憲法の原理そのものを否定するものですから、論理的にはアメリカの統治原理そのものを否定することになる。

 価値観を共有できる国と同盟するのが普通ですけれど、改憲草案は「アメリカとは価値観を共有しない」という宣言に等しい。これは同盟国として見た場合に許し難いものに見えると思います。だから、アメリカの議会人とメディアは同盟国のこの改憲には強い違和感を表明することになると思います。

 第2に、近隣の、特に中国と韓国、台湾といったかつての植民地や侵略の被害国は、改憲を支持している日本人には、過去の侵略戦争を反省していないで、戦争を「アジア解放」だと正当化しようとするマインドがあることを知っていますから、強く反発するでしょうね。

 特に、日本と韓国の連携は東アジアにおける地政学的安定の絶対的な条件だと僕は思っています。でも、アメリカの東アジア戦略の基本は「分断統治」です。アメリカは韓国とは米韓相互防衛条約、日本とは日米安保条約を締結して、それぞれと同盟関係にありますけれど、日韓が連携することについては強い警戒心を持っています。強国が小国と同盟する時は必ずこの「連衡」政策を採って、小国同士の連携を分断しようとする。だから、日韓台の三国については、潜在的には敵対的な関係にあって、同盟関係になったり、相互の信頼関係で結ばれることをアメリカは望んでいません。アジアの諸国間でトラブルがあった場合には必ずアメリカにお伺いを立てて、仲裁を求めてくるという状態を作為的に作り出しています。イギリスがアジアやアフリカでずっとやってきた植民地支配の基本です。

 ただ、アメリカにしてもロシアと中国に加えて北朝鮮というリスク・ファクターが登場してきたせいで、国際関係の変数が増えすぎて、日韓の間に適宜な敵対関係を維持する戦略がいささか面倒になってきた。北朝鮮問題をコントロールするだけの外交的リソースが足りないので、日韓でトラブルを起こしてアメリカの手を煩わせるのは止めてくれというのがワシントンの本音だと思います。

 2015年末に慰安婦問題で唐突な日韓合意がありましたけれど、あれはアメリカの国務省が「オレたちは忙しいんだから、アメリカの仕事をこれ以上増やすな」と一喝したんだと思います。まさか日韓の外交当局が水面下で気長な交渉を進めて、ようやく合意に達したなんて話は日韓国民の誰も信じていません。それから分かるように、改憲で日韓の間の不信感がさらに募って、日韓連携が頓挫することをアメリカは望んでいません。

 それと改憲に対してアメリカが乗り気にならないもう一つの理由は、日本に求めている軍事的なサポートが安保法制と集団的自衛権の行使容認の閣議決定によって事実上はもう達成されたことです。すでに既存の法律の運用で、自衛隊を海外に派兵して、アメリカ軍の指揮下に使える道筋は通った。今さら改憲には及ばない。

 『ニューヨーク・タイムズ』は2012年くらいから、安倍政権の改憲姿勢に対しては一貫して批判的でした。ですから、改憲が政治日程に上ってきたら、その時点から『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』は当然改憲反対の社説を掲げるでしょうし、東アジアの地政学的不安定を望まない諸国のメディアはヨーロッパもアジアでも、改憲を望まないというメッセージを発信すると思います。

 日本が改憲して「戦争ができる国」になることで自国の国益が増大すると考えている国はヨーロッパにもアジアにも一つもないと思います。

 そういう外圧に対して今の日本の政治家たちがきっぱりと反論できるかどうか。そもそも海外の論調を今の日本の政治家たちはほとんど知らないでしょう。

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