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野村浩子(のむら・ひろこ)

ジャーナリスト・淑徳大学教授

野村浩子

1962年生まれ。84年お茶の水女子大学文教育学部卒業。就職情報会社ユー・ピー・ユーを経て、88年、日経ホーム出版社発行のビジネスマン向け月刊誌「日経アントロポス」の創刊チームに加わる。95年「日経WOMAN」編集部に移り副編集長に、2003年1月から編集長。2006年12月、日本初の女性リーダー向け雑誌「日経EW」編集長に就任。2007年9月、日本経済新聞社、編集委員、2012年4月、「日経マネー」副編集長。2014年4月から淑徳大学人文学部表現学科長・教授。財政制度等審議会委員、日本ユネスコ国内委員会委員など各種委員も務める。著書に「女性に伝えたい 未来が変わる働き方」(KADOKAWA刊)、「働く女性の24時間」(日本経済新聞社刊)、「定年が見えてきた女性たちへ」(WAVE出版)。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

ここが間違い、女性の攻め方

女性社長が拓く、キャリア女性の新市場

2017年6月15日(木)

総合職女性の増加につれて、新しい市場が生まれつつある。この市場を切り開くのは、2000年前後に総合職として企業に入り、経験を積んで独立した女性起業家らだ。その強みは、企業の中で鍛えられ修羅場を経験して身につけた力、そして自ら肌感覚で捉えるキャリア女性の新しいニーズである。女性起業家は、どんなニーズをとらえて、どのようなマーケットを見据えているのか。
毛見純子さん/早稲田大学卒業後、ベネッセコーポレーションに入社し、営業職を経験する。その後、プライスウオーターハウスクーパースで組織人事コンサルティング、ボストンコンサルティングにて経営戦略コンサルティングを手掛ける。2008年に独立起業。2011年、kay me創業。

世界五大陸への進出、2022年には株式上場を目指す

「そうだ!ジャージ素材のかわいい柄のワンピースだ!」

 2016年にDBJ女性新ビジネスプランコンペティションで大賞を受賞したkay meの毛見純子さんに起業のアイデアが「降りてきた」のは、2011年の冬が終わりを告げる頃、出張先のビジネスホテルのことだった。予定していたプレゼンテーションが中止となり、ホテルでひとり天井を見ながら考えていた。そこに突然、起業のアイデアが浮かんできたのだ。コンサルティング会社から独立して5年目、「働く女性を応援する」ビジネスで起業したいと思うものの事業テーマが定まらず、苦しみ抜いた末にようやく模索していた点と点がつながった。

 働く女性は、とにかく時間がない。朝コーディネートを考える時間、買い物をする時間、洋服をクリーニングに出す時間…そうした時間を節約できる「時短ドレス」を売り出せないか。ストレッチ素材で長時間着ていても疲れないもので、自宅で気軽に洗濯できるもの。華やかなワンピースで気持ちもアップし、職場も明るくなるといい。そんなドレスで働く女性を応援したい。そうした事業構想が一気にまとまった。

 そこからは早かった。友人の紹介でオーダーメイド服店に足を運んで洋服のつくり方を教えてもらい、パタンナーが大事だと教えてもらうや、すぐさまネットで「パタンナーのコミュニティ」を探し出し、40人に「起業したい、手伝ってほしい」とメールを出した。面談にこぎつけたのは5人、そのうちの一人が生地商社を紹介してくれた。自分の足で百貨店やセレクトショップを歩いて市場調査をした結果を生地商社に持ち込んだところ、そこの課長が「面白い。よし、応援しよう」と腕まくりをしてくれた。発案から3カ月後には、40着の試作品ドレスが完成。販売会を行ったところ、あっという間に完売した。

 その1カ月後には、ストレッチ素材のワンピースの製造販売会社kay meを設立。今では銀座本店をはじめ計6店舗を構え、インターネットでの販売も行う。

 毛見さんの行動力、決断力が事業を立ち上げる上で大きなドライブとなった。しかし、わずか5年で急成長できたのは、それだけではない。市場を分析する力、そして事業構想力という大きな武器があったからこそだ。

企業勤務で培ったスキルを活用

 毛見さんは、早稲田大学卒業後、ベネッセコーポレーションに入社し、営業を担当する。ここで「どんな相手にも耳を傾けてもらう営業力とマーケティング力を身につけた」。その後は、コンサルティング会社に転じて、仮説検証の回し方といった分析手法の基本、そして在庫管理やヒット商品を生み出すマーケティング、人材育成まで経営手法を徹底的に叩き込まれた。もともと毛見さんは幼いころから、会社の経営者を目指していた。きっかけは、京都で呉服店を営む祖母の後ろ姿だ。「意思決定できる人はかっこいい。それに幸せそうだ」と憧れの念を抱いていたという。

 毛見さんの会社の顧客には、金融・IT企業の管理職女性、また弁護士など専門職の女性が多い。毛見さんはいまも時折店頭販売に立ち、顧客のリアルなニーズを探っている。「パリコレクションのトレンドも流行も追わない」と、ファッション界の常識には背を向ける。「忙しい顧客は流行を追う時間などない。主役は自分、自分が堂々と人前で話せる服を求めている」というのだ。

 いずれは、世界五大陸に進出したいという。顧客層は、北米に400万人弱、欧州に120万人、アジアに130万人、そして東京・大阪に210万人ほどいると見込んでいる。2015年はロンドンにも期間限定で店舗を出し、花鳥風月の和柄のドレスでキャリア女性の心をとらえた。今年はニューヨーク進出もうかがう。「まだまだスタートラインにも立てていない」と気を引き締めながらも、2022年には株式市場に上場することを目標に掲げる。

「総合職第二世代」の起業家が活躍し始めた

 毛見さんのような「総合職第二世代」の女性起業家の活躍が目立つようになってきた。企業は2000年前後から女性総合職の採用に力を入れ始める。その頃社会に出た女性が、10年から15年しっかりと組織で鍛えられ、その経験をもって起業し始めたのだ。その中心は40歳前後の脂ののった世代、「総合職第二世代」の起業といってもいい。

 その特徴は、確かなビジネス経験をもって起業していること。むろん起業は、大手企業で経験を積んだといってもたやすいものではない。それでも前職で修羅場をくぐってきたことは大きな武器になるだろう。

 日本政策投資銀行が行う「DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」の入賞者をみても、毛見さんをはじめそうした顔ぶれが目につく。

 2014年に大賞を受賞したマテリアル・ワールド社長の矢野莉恵さんは、2004年に三菱商事に総合職として入社。ニューヨークの駐在経験を経て、現地で起業した。ブランド品の中古を会員から送ってもらい、その謝礼として提携している大手百貨店の商品券を送る。中古品はネット上で販売をする。中古市場の利益をファッション業界、百貨店に還元する一方、自社は百貨店など提携先から安く商品券を仕入れることで中古品販売の利益率を高めるというビジネスモデルだ。

 また、ブランニュウスタイルの和田幸子さんは、1999年にエンジニアとして富士通に入社。自らの子育て体験を踏まえて、退職後の2014年に家事代行のマッチングサイト「タスカジ」を始めている。

 この世代の起業のひとつの大きな特徴は、自らの経験も踏まえての「キャリア女性マーケット」の創造だろう。市場として捉えることができるとは、キャリア女性が増えてきたことを意味する。背景には総合職女性の層が厚みを増したことがある。

女性ならではの視点は切り札に

 冒頭で紹介した毛見さんは、管理職や専門職の女性のファッションの悩みを「時短服」というキーワードで解決しようとする。富士通出身の和田さんもまた、総合職女性の増加で家事外注ニーズが高まっていることを受けての創業である。

Warisの共同代表の3人。左から、米倉史夏さん/99年慶應大学卒業後、日本輸出入銀行(現:国際協力銀行)入行。その後ボストンコンサルティンググループ、リクルートを経て2013年にWaris設立。 田中美和さん/2001年慶應大学卒業後、日経ホーム出版社(現:日経BP社)入社。編集記者を経て2013年に起業。 河京子さん/2007年慶應大学卒業後、リクルートエージェント(現:リクルートキャリア)入社。2014年から現職

 2014年にDBJ女性新ビジネスプランコンペティション優秀賞となった人材紹介会社Waris(ワリス)の代表取締役、田中美和さんもまた、子育てとの両立を不安に思い退職を考える総合職女性が多いことに着目し、キャリアを積みながら就業を断念せざるを得ない女性と企業をつなぐ人材紹介業を立ち上げた。

 田中さんは2001年に出版社に入り、編集記者として活躍した後に起業。共同代表の米倉史夏さんは、1999年に国際協力銀行に入り、ボストンコンサルティンググループ、リクルートで新規事業立ち上げなどを経験。もう一人の共同代表の河京子さんはリクルートキャリア出身。三人の創業者は、いずれも前職で「離職した総合職女性」の仕事に対するひりひりするような思いを感じとっての起業である。

専門性を生かして週4日働く

 人材紹介会社Warisでは、子育てなどで退職を考えている総合職の女性を中心に3000人を企業とつなぐ。例えば、マーケティングや人事、広報などをアウトソーシングしたいと考える企業からの依頼を、会員が個人もしくはチームで、主には業務委託の形で請け負うのだ。時には、正社員、契約社員としての人材紹介も行う。

勅使川原真衣さん/東京大学大学院卒。2010年ボストンコンサルティング入社。新卒人事などを手掛けたのち、2013年ヘイグループに転じ、組織活性業務を手掛ける。現在はフリーランスで人事コンサルティングを行う

 会員の6割が30代。会員の多くは、会社員時代の平均年収は600万~800万円と働く女性の平均をはるかに上回っていたキャリア組だ。前職に比べると年収は激減するが、こだわるのは時間単価で「時給をあげる」ことを目標とする人が多いという。できたら週3日か4日働くスタイルにしたいという。

 外資系人事コンサルティング会社を数年前に退職した、勅使川原真衣さん(35歳)もまたそうしたひとりだ。退職を決断したきっかけは、保育園での面談だった。

 「お子さん、クラスの中で出来ることが一番少ないですよ。チャックを閉められないし、ボタンをはめることもなかなか出来ない……」

 ある日、4歳になった息子を預けている保育園の個人面談で50代のベテラン保母さんからこう言い渡されたとき、真衣さんは涙がこぼれて止まらなくなった。

 「子供に負担をかけているんだな。働き方を何とか変えないといけない」

 当時は、コンサルティング会社に勤めて激務をこなしていた。睡眠時間は1日3時間、保育園のお迎えはいつも最後で、保育観察にも足を運べない。どうにも回らなくなり平日は実家に子供を「疎開」させていた。

 「子どものために退職させていただきます」

 人事コンサルタントとして独立しようと決断するのに、時間はかからなかった。

 退職を決めた真衣さんは、まずビジネスコーチングを頼み、「自分が何を求めているか」を明確にして4つのミッションを定めた。

  1. 子供を第一の軸にする。子供と一緒にいるとき「抱っこ」と言われたら、必ず「抱っこ」してあげる
  2. 人事組織領域の専門性を追求する
  3. 収入を会社員時代の倍にする
  4. 週45時間以上の睡眠時間を確保する

 退職後の生活は一変した。保育園の送りは夫、お迎えは真衣さんと決め、自宅で夕食の準備を済ませたうえで夜7時15分までにお迎えにいく。子供が起きている間はPCを開かず一緒の時間を過ごす。仕事の時間は、会社員時代の3分の2ほどに押さえている。週5日働く日もあれば、顧客が休みのときは思い切って長期に休む。ならすと週4日くらいの稼働になるという。ふと時間があいて「軽井沢にトンボを見に行こうか」と平日に息子とともに小旅行に出かけたこともある。

 嬉しいことに、ひっこみ思案だった息子が変わった。以前は子供が大勢いると泣き出すほどだったが、今では運動会で率先して一番前で踊る。「もっと僕の話を聞いて、聞いて」と人に話しかけるようになった。

働き方を変えたら、心に余裕ができた

 退職して心に余裕ができたためか、夫とのケンカも目に見えて減った。夫は家事育児を前よりも担うようになり、今では4割くらいは「務めを果たしてくれるようになった」と笑う。

 ちなみに先の4つのミッションの軸は揺るがず、今のところすべて達成しているとか。人事コンサルティングとしての武器は、心理学の「性格行動特性」をベースにした分析・提案だ。人間には生まれつき3つの動機があるという。権力動機、達成動機、そして人と協調したいという親和動機。自らの動機のどれが強いかを知ることでよりよい仕事の選択ができ、人間関係が楽になる。組織ではマネジメントがしやすくなる。これを世に広めて「性格行動分析の母」となることが夢だという。「子供には、仕事をする素敵なお母さんの背中を見せたい。もっと頑張りたくて仕方がないけど、会社員時代と同じ轍を踏まないようにしないと」と笑う。

 真衣さんに最初の仕事を紹介したWarisが目指すのは、日本企業の硬直的な働き方を変えていくことだ。「人生のステージに応じて、働き方を自由に行き来できるようになるといい」と代表取締役の田中美和さんはいう。正社員からフリーランスになり、また正社員になるといった具合だ。真衣さんもまた、これから再び会社員に戻ろうか、あるいは起業しようかと少し迷っている。「会社員だと、外に企画を出す前に社内で叩いてもらえる。ツールもナレッジももらえるし、会社は鍛えてもらうにはいい舞台だと思う」からだ。Warisは、柔軟なキャリアパスを模索するキャリア女性と企業をつなぎ、働く選択肢を少しずつ広げている。

 総合職女性の増加とともに、女性マーケットも変化を遂げている。時短ビジネス、家事アウトソーシング、新たな働き方のジョブマッチング…これまでにないニーズをいち早く肌感覚でとらえる総合職第二世代の女性たち。新たに登場した女性起業家が、いま新市場を創り出そうとしている。

女性に伝えたい 未来が変わる働き方(野村浩子著、KADOKAWA刊)

元『日経WOMAN』編集長が提案する、二極化時代の新しい生き方、働き方

働きにくさ、生きづらさを変えるためのヒント。

男女雇用機会均等法の施行から30年が経ち、女性たちの働く環境はどう変わったか。多様化する時代の中で、自分らしく働くためにはどうすればよいか。豊富な事例から、新しい時代の「働き方」「生き方」を探る。

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