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伊神 満(いがみ みつる)

米エール大学経済学部助教授/米スタンフォード大学経済政策研究所客員助教授

伊神 満

1978年東京生まれ。東京大学教養学部ラテンアメリカ地域文化研究科卒業後、日興ソロモン・スミス・バーニー(現シティグループ証券)株式調査部アナリストを経て、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校アンダーソン経営大学院で博士号を取得、2012年から現職。専門は、企業と産業の経済学(産業組織論)、特に寡占市場の動学ゲーム分析とイノベーションの実証研究。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

「気鋭の論点」

サバイバルの条件は、創造的「自己」破壊だ

2015年1月5日(月)

 “In the long run, we are all dead”(長期的には、我々はみな死んでいる)とはケインズの一節だが、確かにビジネスの世界も没落企業や衰退産業であふれ返っている。アマゾンやグーグルが新サービスを世に送り出し、新時代の勝者が生まれるたびに、不要となった旧世代はゴミ箱行きとなる。

 アナログ時代のトップ・フィルムメーカー、米コダック社はデジタル化の波の藻屑と消え、オンライン配信に乗り遅れたレンタルビデオのブロックバスター社は2010年に破産申請。大型スーパーで一世を風靡したウォルマート・ストアーズも、「何でも屋」と化したアマゾンの通販にどこまで対抗できるのか、将来を危ぶむ声がある。

 驕れる者も久しからず。敗者たちも、手をこまぬいていたわけではない。コダックは1975年時点で既にデジタルカメラを開発していたし、ブロックバスターも2006年にオンライン配信サービスを立ち上げている(後に同社を葬ることになるネットフリックス社は、当時まだDVDの郵送レンタルを行う零細業者に過ぎなかった)。ブロックバスターの当時のCEO(最高経営責任者)は「オンライン配信こそ我々の未来だ。この成長ビジネスに注力していく」と株主に告げていた。

 ところがどっこい気づいてみれば、彼らの姿は消えている。「成長戦略」や「イノベーションの重要性」を語る経営者は多いが、振り返ると本気で言っていたのか怪しいケースの方が多いのは不思議なことだ。

 旧世代の勝者が往々にして新しい技術に対応しきれないのはなぜか。いかにもビジネス書向きのテーマだし、運がよければ株式投資に役立つ知見が得られるかもしれない。また「一国ひいては世界の経済成長、したがって我々の生活水準も、長期的には技術革新次第」というのが経済成長理論の定説だから、そのイノベーションを担うのが誰か、どのようなインセンティブが作用しているのかは、ミクロ・マクロを問わず多くの経済学者の関心事だ(後述するが、私自身の研究内容でもある)。

 したがって同種の疑問を抱いた研究者は多く、有名どころでも過去100年間で3人挙げることができる。クリステンセン、アロー、そしてシュンペーターだ。

優良企業ならではの深刻なジレンマ

 1997年に『イノベーターのジレンマ』がベストセラーになった、米ハーバード・ビジネススクールのクリステンセンは、ハードディスク駆動装置(HDD)業界に関する経営史研究を基に、旧世代の「勝ち組」企業が抱える組織内の問題を指摘した。ちなみにHDD産業は一般的にはマイナーだが、半導体やインターネットと並んでコンピューター業界を支える3本柱の一つだ。

 クリステンセンの研究対象は、旧世代とはいえ一度は勝者となった企業だから、例えば日々の業務の効率性や顧客への対応、それに研究開発体制などは概してソツがなく、ある意味「優良企業」が多かった。優秀なはずのそれらの組織に、それではどんな問題があったというのか。

 優良企業であるがゆえに生じる弱点の1つは、有力な顧客を多く抱えている事だ、とクリステンセンは言う。それの一体何がまずいのかというと、既存顧客の求める既存製品以外は、社内的に傍流になってしまうという点だ。

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