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「農業の守り方を間違った」元農水次官の告白

第1回 高木勇樹・元農林水産事務次官

  • 市村 孝二巳

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2011年11月7日(月)

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 日本はTPP(環太平洋経済連携協定)交渉に参加するのか。今週、米ハワイで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を前に、野田佳彦首相がいまや国論を二分するこの問題に結論を出そうとしている。日経ビジネスは11月7日号の特集「TPP亡国論のウソ」で、世間に渦巻くTPP亡国論に流されず、通商国家ニッポンの針路を示すには、まず誤解や曲解を排し、冷静な情勢分析と的確な判断に徹する必要があることを主張した。この企画と連動し、今日からシリーズで内外の論客にTPPの意義を論じてもらう。

 第1回は元農林水産事務次官である高木勇樹氏(現・日本プロ農業総合支援機構副理事長)。

 TPPが農業に壊滅的な被害をもたらすというTPP亡国論の最大の論拠は、農業生産額が半減し、コメの生産が9割減るとした農林水産省の試算だ。日本の農政を司る農水省は、関税障壁によってコメなどの重要品目を保護する一方、減反政策で米価を維持しようとする政策をとってきた。

 これに対し高木氏は、これまでの農業保護のあり方は間違っていたと自らの過去も含めて批判する。反対派の議論とは全く逆に、日本の農業再生のために、なぜTPP交渉に参加する必要があると説くのか。

 TPP(環太平洋経済連携協定)に反対する人たちは、何から何まで総動員してTPPを非難しているが、私にはあまり説得力があるとは思えない。

 彼らは「TPPに入ると国の形が変わってしまう」というが、今は何が起きているのか。今はなし崩しに国の形が変わっているのだ。

高木 勇樹(たかぎ・ゆうき)氏 1966年東京大学法学部卒、農林省(現・農林水産省)入省。畜産局長、官房長、食糧庁長官などを経て、1998年事務次官。2001年退官後は農林中金総合研究所理事長、農林漁業金融公庫総裁を歴任。2007年からNPO(特定非営利活動法人)日本プロ農業総合支援機構副理事長。
(写真:都築雅人)

 農村は疲弊し、いまや外国人労働者、いわゆる研修生の力を借りずには農業を維持できなくなっている現実をみれば、国の形はなし崩しに変わりつつある。農業はこのまま行けば右肩下がりだ。農林水産省の試算ではTPPに参加すると農業生産額が4兆1000億円消えるというが、この20年で農業総生産は4兆円減り、農業所得は半減した。

 地縁、血縁があるので、なかなか大きな声では言えないことだろうが、私が農村集落に行って話す限り、このまま行っても日本の農業は先の見通しが何もない。何もないどころか、人がいなくなっているという危機感は強い。

 これだけ高い関税で守ってきたのに、なぜそういうことになってしまったのか。それは農業の守り方が間違っていたからだ。

 間違っていた守り方を直すには、まず日本の農業の現状、強みと弱みををきちんと分析、検証することだ。そうすればTPP24分野の交渉の戦術はできる。どこに手を打たないといけないか、どれだけの期間をかけなければならないか。それを考えた上で交渉に臨めばいい。そして戦術の前に、この国の形をどうしていくか、という大きな戦略を作らなければならない。

 そうした戦略に基づいて、それでもなおコメを守る必要があるというのであれば、関税撤廃の例外品目にする、ないしは関税の削減幅を暫定的に限定する、といった要求をするなど、いろいろ方法はあると思う。そうした交渉もせずにTPPに入ったらまるでいきなり関税がゼロになるかのように、何の根拠にも基づかないで恐怖感を煽るのは冷静な議論を妨げるだけではなく、国の形を誤らせる。

「原則関税撤廃」は大きな誤解

 何しろ「原則関税撤廃」というのが大きな誤解だ。撤廃する品目もあるが、そこは正に交渉して決まる話だ。米国は米豪FTA(自由貿易協定)で砂糖などを関税撤廃の例外にしている。TPPでも米豪FTAの内容は変えないというのが米国の基本姿勢だ。若干は変えるところがあるとしても、基本は絶対に守るだろう。

 日本がどうしてもコメを守りたいならば、早く交渉に入って、我々はコメ問題をこう考えると主張するべきだ。米韓FTAでコメを例外にした韓国が、もしTPPに入ってくれば、当然コメを例外にするよう主張する。日本が先に入り、WTO(世界貿易機関)のドーハラウンド(多角的通商交渉)でそうしたのと同じように、韓国と一緒にコメを守ればいい。

 一方、国内でもコメをどう守るのかも変えるべきだ。いま水田が260万~270万ヘクタール使えるのに、実際には160万ヘクタールしか稲を植えていないという状況を大きく変えていくということだ。極端に言えば、全部稲を植えて、輸出し、飼料用や加工用にも回していく。そういう大胆な発想をすれば、農村の活性化はあっという間にできる。

コメント96件コメント/レビュー

農業の守り方を間違ったというのは,結果を見れば誰の目にも明らかだ(こうなるのが目標だったというのなら話は違うが).問題は,どこで間違えたか,なぜ間違えたか,間違いの責任はどこにあり,その責任のとり方はどうあるべきか,こういった一連の分析と検証を正確に行えるかということだ.それがない限り,間違いの埋め合わせはできない.失敗の責任者の一人である元農林官僚の一人が一応責任を認めた.だが,それは誰の目にも明らかな失敗の追認に過ぎない.知らぬ顔の半兵衛を決め込むよりましとは言え,解決の道筋を示唆するものではない.(2011/11/10)

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農業の守り方を間違ったというのは,結果を見れば誰の目にも明らかだ(こうなるのが目標だったというのなら話は違うが).問題は,どこで間違えたか,なぜ間違えたか,間違いの責任はどこにあり,その責任のとり方はどうあるべきか,こういった一連の分析と検証を正確に行えるかということだ.それがない限り,間違いの埋め合わせはできない.失敗の責任者の一人である元農林官僚の一人が一応責任を認めた.だが,それは誰の目にも明らかな失敗の追認に過ぎない.知らぬ顔の半兵衛を決め込むよりましとは言え,解決の道筋を示唆するものではない.(2011/11/10)

TPPに関する議論は反対派のスポット攻撃の声ばかり大きく、推進派の巨視的総合的な説明提案を容易に否定してしまう。部分否定だけで偽とみなし即全否定する(上に消去法で結局劣った選択をしやすい)典型的日本人に、総合的な議論はそもそも向いていない。こういった日本人の特性を掴み、単に票田として農業をエセ保護してきたのは旧自民党政権である。農業政策の現状否定、近未来否定はたやすいが、その基盤、否定材料、借金を積み重ねてきたのは民主党でないということをすっかり無視ないし忘れている。農業人口の高齢化もかなり進んでいるが、どうも近年の年寄りは若者の未来を慎重に考えてくれていないようだ。ただし革新派にも釘を差しておきたい。数十年蓄積してきた借金を10年で解消しようとしても無茶である。当面は個人資産に頼る国債を活用して、徐々に軌道修正と借金返済をしないといけない。過剰に急激な変革や劇薬投与は産業ポテンシャルや国力を損ね、結局国内農業の破滅や国家破綻を招くことになる。(2011/11/10)

国産の雑穀が手に入らない。350グラムで千円もするのにである。消費者が求めるものを生産できないという時点で日本の農業は失敗と言わざるを得ない。(2011/11/09)

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三品 和広 神戸大学教授