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津波で酒蔵を失った男の再起への誓い~そして今、彼は

「とにかく早く酒が造りたかった」

  • 伝農 浩子

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2012年2月29日(水)

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 「お酒の瓶を持って撮りましょう」

 そう言うと、鈴木酒造店の専務、鈴木大介さんは、傍らのケースから1本の酒を取り出した。
「季づくり しぼりたて磐城壽」
 2011年3月11日、東日本大震災に襲われた鈴木さんが、唯一持って逃げることができたのと同じ酒だ。

山形県長井市に移った鈴木酒造店の専務、鈴木大介さん

 鈴木さんは、福島県浪江町にあった酒蔵すべてを津波で失った。原発事故のため、故郷には帰れなくなっている(関連記事「津波で酒蔵を失った男の再起への誓い」)。だが今、鈴木さんは、新天地である山形県長井市で新たな夢を紡ぎ始めている。

 取材の終わりに、家族そろって写真を撮ろうと声をかけた。

 「あの」2011年3月11日から3日後、散り散りになっていた鈴木さん一家や親族は、ほうほうの体で逃げ延び、米沢のホテルで再会を果たした。一同、15人ほど。何とか持ち出した「季づくり しぼりたて磐城壽」の瓶を空け、3月11日に祝うはずだった甑倒しをささやかに祝った。甑倒しは、そのシーズンの最後の仕込み終わったことを祝う。「最後の1本なら取っておいたらよかったのに」と思わず筆者は口にした。生酒は時間と共に劣化する。このため、鈴木さんは残すことを考えなかったようだ。鈴木さんたちは、これを最後の酒にしてなるものかと、噛み締めるように飲み干したのだという。

 それから約9カ月。例年よりおくれたものの、2011年12月下旬に「季づくり しぼりたて磐城壽」を出荷した。新酒が店頭に並ぶ様子を、テレビのニュースが放映した。画面は、たくさんの人たちのうれしそうな顔を映し出していた。みな、故郷・浪江町との絆を求めて買いに来た人たちだ。

帰れない浪江町を後にして新天地へ向かう

「季づくり しぼりたて磐城壽」

 酒造りにとって、水は重要な要素だ。洗う。蒸す。仕込む。アルコール度数を下げるために割り水をする。いずれの作業にも水が大切な役割を果たす。仕込み水と総称される。地元の水、または敷地からくみ上げる水を使うのが一般的だ。

 このため酒蔵は自ずと水質の良いところに集まる。水の個性を生かした酒を造る。造り手は地場の水に誇りを持つ。

 蔵の場所を移すことは水が変わること。それも見知らぬ土地へ、となると、酒蔵への影響は大きい。

 東日本大震災で被災した酒蔵の中で、他県へ移転したのは鈴木酒造店だけだった。後継者問題で数年前から廃業を考えていた東洋酒造を引き継ぐことにしたのだ。長く廃業していた蔵ではなく、まだ稼働していた蔵を受け継ぐことができたのは、幸運だった。

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