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韓米FTAの“毒”は韓国の農業を壊滅させるのか

レッスン2 ラチェット条項で食の安全は脅かされない

2012年3月15日(木)

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 今日3月15日、韓米FTAが発効しました。日本が参加に向けた準備を進めているTPPを正しく議論するための今シリーズ2回目は食の安全と農業を取り扱います。

 本題に入る前に、まず、日本でも広まりつつある、韓米FTAの「毒素条項」について説明しておきます。「毒素条項」とは何とも恐ろしいネーミングですが、外交通商部によれば、最近インターネットを中心に流れている主張であり、韓米FTAのなかで、韓国の経済・社会にダメージを与えるとされている条項です。

 これに相当する条項は12種類であり、具体的には、(1)サービス市場のネガティブリスト、(2)ラチェット条項、(3)未来最恵国待遇条項、(4)投資家-国家間紛争解決制度(ISD)、(5)間接収用による損害補償、(6)非違反制度、(7)政府の立証責任、(8)サービス非設立権、(9)公企業完全民営化及び外国人所有持分制限撤廃、(10)知識財産権直接規制条項、(11)金融及び資本市場の完全開放、(12)再協議不可条項です(内容は表1を参照して下さい)。

「毒素条項」の主張のみ日本上陸

 これら毒素条項については、2011年1月に外交通商部が、12種類のそれぞれに対して根拠を挙げつつ反論する資料「わかりやすく書いた、いわゆる韓米FTA毒素条項主張に対する反論」(2011年1月)を公表しています。しかし「毒素条項」は、反論を韓国に置いたまま、主張だけが日本に上陸し、韓米FTAはアメリカによる陰謀の象徴であるかのごとく扱われています。「毒素条項」に対する政府の反論は、このシリーズでできるだけ紹介します。

 さて「毒素条項」のなかにも、ラチェット条項、未来最恵国待遇条項といった、食の安全と農業に関係するものがあります。ラチェット条項を「毒素条項」とする根拠の一つに、「BSE(牛海綿状脳症)牛肉輸入によって、多くの人間がBSEにかかる状況となっても、輸入を中断できない」といった主張があります。また、未来最恵国待遇については、「日本とFTAを締結する時、農産物分野において、韓国が日本より強い、とうもろこしや麦を相互開放する場合、元の韓米FTAでは開放義務がない、とうもろこしや麦も、ただちに米国に開放しなければならない」といった主張があります。

 さらに「毒素条項」の主張ではありませんが、「韓米FTAにより韓国農業は壊滅する」との懸念もあります。そこでレッスン2では、(1)ラチェット条項、(2)未来最恵国待遇条項、(3)韓米FTAが農業に与える影響について検討しつつ、韓米FTAによって、韓国は食の安全が守れなくなるのか、農業は本当に壊滅してしまうのか見ていきましょう。

(表1)いわゆる「毒素条項」とその主張内容
(1)サービス市場のネガティブリスト ・開放しない分野だけを指定する条項で、事実上全てのサービス市場を開放する。
・あらゆる賭博サービス、アダルト産業、マルチ商法などが国内に参入してきても、これを無条件に受け入れることになる。
(2)ラチェット条項 ・一度開放された水準は、いかなる場合も逆に戻せない条項であり、先進国間のFTAでは例のない毒素条項である。
・米開放により米作が全滅し、食糧が政治的なカードとされる状況となっても、以前の水準に戻すことはできない。
・BSE牛肉輸入によって、多くの人間がBSEにかかる状況となっても、輸入を中断できない。
・電気、ガス、水道などが民営化された後、独占等により価格暴騰等の混乱が発生しても以前の水準に戻すことはできない。
・教育や文化分野が自由化された後、以前の水準に戻すことはできない。
(3)未来最恵国待遇条項 ・将来、他の国と米国より高い水準の市場開放を約束する場合、自動的に韓米FTAに遡及適用される条項である。
・日本とFTAを締結する時、農産物分野において、韓国が日本より強い、とうもろこしや麦を相互開放する場合、元の韓米FTAでは開放義務がない、とうもろこしや麦も、ただちに米国に開放しなければならない。
(4)投資家-国家間紛争解決制度(ISD) ・国の主権の喪失を招く最も悪い条項である。大韓民国憲法上保障された、司法権、平等権、社会権が崩れる。この制度によって韓国に投資した米国資本や企業は、韓国で裁判を受ける必要がなくなる。
(5)間接収用による損害補償 ・韓米FTAの条項が国内法に優越し、アメリカ系企業が不法行為を行っても、韓国政府これを規制することができなくなる。規制した場合、営業活動を妨害したとして提訴される。
・政府の政策や規定により発生した、間接的損害にも補償しなければならない条項である。
(例)人口が密集している韓国は土地公共概念など、利用を制限する共同体的法制を有する(米国は韓国と正反対)。しかしこの毒素条項により韓国のすべての共同体的法体制が完全に消える。韓米FTAが韓国政府のすべての政策と規定の上位法として解釈されるようになる。韓国の主権が有名無実化する危険がある。
(6)非違反制度 ・FTA協定文に違反しない場合でも、政府の税金、補助金、不公正取引是正措置などの政策により、「期待する利益」を得られなかったことを根拠として、投資家が相手国を国際仲裁機関に提訴できる。
・資本や企業が自分らの経営失敗で期待利益を得られなかった場合でも、韓国政府を相手に訴訟を提起できる。
・国際仲裁機関に提訴して、勝てば天文学的な賠償金を受け取れる。
(7)政府の立証責任 ・全ての政策や規定について、政府はこれが必要不可欠なことであることを、科学的に立証しなければならない責任を負う。
・BSE発生時に米国産牛肉輸入を規制しようとしても、韓国政府が直接BSEを立証しなければならない。
(8)サービス非設立権 ・相手国に事業所を設立せずに営業できる条項である。国内に存在しない会社を処罰できる法律がないため、サービス設立権条項により、韓国はこれら企業に対して、課税や不法行為に対する処罰ができない。
(9)公企業完全民営化及び外国人所有持分制限撤廃 ・韓国の公企業を、アメリカの巨大投機資本に、美味しく捕えやすい獲物として与える条項(国公企業民営化入札に米国系企業や資本が参加して引き受けられる)。
(例)医療保険公団、韓国電力、水資源公社、道路公社、KBS(日本のNHK)、地下鉄公社、鉄道公社、国民年金等がアメリカの巨大投機資本に私有化される可能性が高い。その結果、水道料金、電気料金、地下鉄料金、ガス料金、医療保険料等が大幅に引き上げられることになり、庶民経済が破綻する(アメリカ資本は利潤のみ求め再投資しないため、国家の基幹産業が荒廃するほかはない)。
(10)知識財産権直接規制条項 ・韓国人、韓国政府、韓国企業に対する知的財産権取り締まり権限を、アメリカ系企業が直接持つようになり、複製薬生産が不可能になり、薬の価格は青天井に高まる。
(11)金融及び資本市場の完全開放 ・韓国の金融市場を、現在にも増して国際投機資本の遊び場とする、害をもたらす条項である。
・外国投機資本が韓国内で制裁なしに銀行業を営める。
・外国投機資本が国内銀行の株式を100%所有できる。
・中小企業に対する貸出減少により多くの中小企業の倒産が憂慮される。
・社債利率制限廃止により社債問題が深刻となる。
(12)再協議不可条項 ・上記11種類の条項はいかなる場合でも再協議ができない。

(出所)外交通商部「わかりやすく書いた、いわゆる韓米FTA毒素条項主張に対する反論」(2011年1月)により作成。

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「韓米FTAの“毒”は韓国の農業を壊滅させるのか」の著者

高安 雄一

高安 雄一(たかやす・ゆういち)

大東文化大学経済学部教授

1990年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、調査局、外務省、国民生活局、筑波大学システム情報工学研究科准教授などを経て現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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