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TPPでアメリカに乗っ取られる? 韓国の「公共政策」

レッスン3 「電気料金は急上昇」せず、「医療保険も崩壊」しない

2012年4月26日(木)

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 シリ-ズ3回目は「公共政策」について取り上げます。

 広辞苑によれば公共政策は「公共の利益を増進させるための政府の政策」です。日本公共政策学会では、「『公共政策』とは、国や地方自治体が実施するさまざまな施策のことです。公共政策には、公園の設置やゴミ収集や道路の整備のような身近なものから、地域活性化政策、経済政策や外交政策などにいたるまで、さまざまなレベルのものがあり、多岐にわたって私たちの生活に深くかかわっています」としています(※1)。このように公共政策は、国民の生活を大きく左右するものであり、国や地方自治体が責任を持って実施しています。

 しかし韓米FTAが締結されると、「韓国政府は公共政策を自主的に行う権利を失ってしまう」といった主張があります。さらには、「公共政策がアメリカに乗っ取られてしまう。その際、アメリカは自らの利益を最優先し、韓国国民の利益は考慮しないため、韓国国民が受ける公共サ-ビスの質が大きく低下してしまう」といった指摘もあります。今回のレッスンでは、韓米FTAによって、本当に韓国の公共政策がアメリカに乗っ取られる事態が生じ得るのかを検証することにします。

乗っ取りを想起させた「非違反提訴」と「間接収用」

 韓国が公共政策の自律権を失う、とする主張の根拠には、韓米FTAの中にある「非違反提訴」、「間接収用」の2つに関する条項があると考えられます。ここから見ていきましょう。

 最初に「非違反提訴」です。これは、韓米FTAの第22章(制度規定及び紛争解決)、B節(紛争解決手続き)、第22.4条(適用範囲)に関するものです。B節では、協定に基づく締約国間の紛争に関して規定されており、紛争解決手続きは、(1)締約国間の協議、(2)合同委員会への付託、(3)紛争解決パネルを設置、(4)パネルが報告書提出、(5)被申立国によるパネル裁定結果の履行、という流れで進みます。(※2)

 このような紛争解決手続きに付託できる案件は、一般的に、(1)当該協定の解釈及び適用に関する案件のみ認められる場合、(2)協定の解釈・適用に加えて、当該協定に違反しない措置についても、当事国の協定上の利益が無効化されているとして、当該措置に関する案件を付託することを認める場合、の2つに大別できます(※3)。日本が締結している全てのEPAは前者であり、韓米FTAは後者です。またNAFTA、韓・シンガポ-ルFTAも後者です。韓米FTAの第22.4条では、紛争解決手続きが適用される範囲が定められており、ここに、協定に違反しない措置であっても、自国に発生することが合理的に期待される利益が無効化あるいは侵害された場合、この手続きが適用されると規定されています。

 この規定による提訴が「非違反提訴」と呼ばれています(日本では「非違反申し立て」とされています)。なお「非違反提訴」は、WTO紛争解決手続きでも認められています。

 「非違反提訴」を定めた条項(以下「非違反提訴条項」とします)を「毒素条項」と主張する人は、「FTA協定文に違反しない場合でも、政府の税金、補助金、不公正取引是正措置など政策により、『期待する利益』を得られなかったことを根拠として、投資家が相手国を国際仲裁機関に提訴できる。資本や企業が自分らの経営失敗で期待利益を得られなかった場合でも、韓国政府を相手に訴訟を提起できる」ことを懸念しています(※4)

投資家は使えない「非違反提訴」

 これに対して韓国政府は以下の点を挙げて反論しています(※5)。まず、「非違反提訴」はレッスン1で取り上げたISD(投資家対国家の紛争解決)のように、投資家が国家を訴える場合には使えない点です。「非違反提訴」が関係する第22章B項では紛争解決手続きが定められていますが、これは国家対国家の紛争解決手続きに限られ、投資家には提訴適格がありません。つまり「非違反提訴」条項が毒素条項であるとの主張は、「非違反提訴」が可能な、国家対国家の紛争解決手続きとISD(投資家対国家の紛争解決)手続きを混同しています(※6)。ISD手続きでは「非違反提訴」ができないため、韓国に投資したアメリカの投資家が、韓国政府が講じた措置のため期待した利益が得られなかったからといって、韓国政府を提訴することは不可能です。

 なおアメリカ政府が企業を代弁して、国家対国家の紛争解決手続きを通して「非違反提訴」を行うのでは、との再反論がなされるかもしれません。しかし「非違反提訴」は簡単にできるものではありません。「非違反提訴」をするためには、提訴国は、(1)訴えられる国の措置によって、提訴国の協定上の利益が無効化あるいは侵害された点、(2)提訴国がこのような侵害や無効化を合理的に予測できなかった点、を証明しなければなりません。このように、提訴国の立証責任のハードルは高いのです(※7)。そして、1995年にWTO体制がスタートしてから、「非違反提訴」がなされた事案は3件に過ぎません。上記3件のなかで、2件は米国が、1件はカナダが提訴したのですが、すべて提訴国が敗訴しています。

(※1)日本公共政策学会ホームページより引用した。

(※2)日本貿易振興機構(2008)163-164ページ。

(※3)経済産業省(2011)714ページ。

(※4)外交通商部(2011)による。

(※5)以下の政府による反論の記述は、外交通商部(2011)による。外交通商部の反論は、該当部分を翻訳しつつ、内容を変えない範囲で、要約、文言の追加等を行った。

(※6)また「非違反提訴」は、韓米FTAの協定文のあらゆる分野で可能なわけではありません。適用される分野は、第2章(商品に対する内国民待遇および市場アクセス)、第3章(農業)、第4章(繊維および衣類)、第6章(原産地規定および原産地手続き)、第12章(国境間サービス貿易)、第17章(政府調達)、第18章(知的財産権)である。

(※7)ここで示した立証責任は外交通商部(2011)による。なお滝沢(2010:29)は、「非違反提訴」の条件として、(1)無効化あるいは侵害された利益が存在することを示す、(2)対象となる輸出国の措置を特定する、(3)輸入国による措置と無効化・侵害利益の因果関係を示すことを挙げている。さらに滝沢(2010:28)は、WTO紛争解決手続きにおいて、「非違反提訴」は例外的な場合でなければ加盟国は「非違反提訴」を行ってはならないことがパネル報告により確立しているとし、「加盟国はWTO協定遵守について合意したので、協定違反でない事由のために加盟国が提訴されるのは、例外的場合に限定されることが当然である」とした、「日本-富士フイルム」事件のパネルの結果を紹介している。

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「TPPでアメリカに乗っ取られる? 韓国の「公共政策」」の著者

高安 雄一

高安 雄一(たかやす・ゆういち)

大東文化大学経済学部教授

1990年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、調査局、外務省、国民生活局、筑波大学システム情報工学研究科准教授などを経て現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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