• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

新たなクリエイティブは「神山モデル」が作り出す

奇跡のNPO、グリーンバレーの創造的軌跡(3)

2012年7月13日(金)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 徳島市内から40~50分のところに、神山町(徳島県名西郡)という町がある。人口は6300人ほど。高齢化率は46%に達する山間部の過疎の町だ。ところが、今年になって、静かな町に異変が起きた。転入者が転出者を上回ったのだ。しかも、神山町に拠点を設ける企業も増えている。なぜ神山町に移住者や企業が集まり始めたのだろうか。

 実は、その背景には神山町に拠点を置くNPO法人グリーンバレーの存在がある。彼らが生み出す場の雰囲気がクリエイティブな外部の人材を呼び寄せ、その人材が新たな場を作るという好循環を生み出した。1人の天才が生み出すクリエイティビティがある一方で、良質なコミュニティが生み出す革新――。その意味するものは何か。(敬称略)

前回から読む)
前々回から読む)

 アーティスト・イン・神山を軌道に乗せるため、グリーンバレーは2007年4月に、ウェブサイトを一新することに決めた。初めのうちは、あくまでもアート・イン・神山やグリーバレーの活動紹介を主軸に考えていたが、プランニング・ディレクターの西村佳哲やウェブクリエイターのトム・ヴィンセントと出会ったことで、グリーンバレーの活動はより一層広がった。

神山町には日本の滝百選に選ばれた「雨乞の滝」がある(写真 宮嶋康彦、以下同)

 西村は、愛知万博の日本政府館のウェブプロジェクトや働き方研究で知られるクリエイターで、「自分の仕事を作る」などの著書がある。ヴィンセントはグローバル企業のブランディングや地域活性化を手がける一方、2010年10月、神山町の空き家にブルーベアオフィスというサテライトオフィス開いた。


来てほしいと思う移住者を指名する

 ウェブサイトの構築を依頼するグリーンバレーに対して、西村やヴィンセントは「神山で暮らす」というコンテンツをウェブサイトに置くべきと提案した。ウェブサイトを見る人々の中には町の暮らしに関心を持つ人が一定数いる。空き家紹介のページを作れば、手を挙げる人は必ずいる、と考えてのことだ。事実、2008年6月にウェブサイト「イン神山」を開くと、「神山で暮らす」が一番の人気コンテンツに育った。

 この提案はグリーンバレーにとってもタイミングがよかった。

 元来、神山町はIターン者がほとんどいない町である。過去30年を振り返っても、画家と陶芸家の2世帯が移住してきたくらいのものだ。ただ、神山アーティスト・イン・レジデンスを始めた1999年以降、神山に滞在したアーティストの移住希望がぽつぽつと出始めた。そういったアーティストに空き家の古民家を世話しているうちに、グリーンバレー自身にも所有者との交渉など移住支援のノウハウが少しずつ蓄積されていた。

 ちょうどその時、徳島県が県内8カ所に移住交流支援センターを置くという話が浮上し、その1カ所として神山町が選ばれることになった。ほかの7カ所は市役所や町役場に設置されたが、移住支援のノウハウを持っていたため、神山町についてはグリーンバレーに運営が任された。それが、グリーンバレーにとって大きな意味を持った。移住希望者の逆指名制度が可能になったからだ。

 市役所や町役場が運営している場合、グリーンバレーのようなNPO法人は移住希望者の個人情報を直接知ることはできない。ところが、神山町ではグリーンバレーが運営しているため、移住者希望者の属性や夢に触れることができる。そのことによって、大南は移住希望者の中に、パン屋やWebデザイナーなど、これまでに想定していなかった職種が存在するという事実を知った。

 そして、こう思い始める。神山町の目抜き通りは空き家ばかりになっている。少子化と高齢化によって若年世代も減りつつある。ならば、我々が来てほしいと思う職人を逆指名し、古民家を貸し出せば一石二鳥ではないだろうか――。アート作品を作り上げるのではなく、神山町に住み、スキルを生かして働いてもらう。そんな「ワーク・イン・レジデンス」というコンセプトが生まれた瞬間だ。

(画像をクリックするとサイトへジャンプします)

目標は親2人子2人の5世帯を受け入れること

 行政主導の移住支援では希望者を選別するという発想はほとんどない。移住希望者を選別することを危惧する声も上がった。だが、大南は逆に選ぶべきと主張した。

 地域にとって、移住者は地域に花嫁を迎え入れるのと同じこと。そのお嫁さんを抽選で決める人はどこにもいない。それに、移住者の受け入れは本人だけでなく地域にとってもストレスだ。だからこそ、地域が納得する人を迎え入れるべきではないか。

 しかも、神山町は絶対的に子供の数が少ない。大南は8年前、徳島大学の教授に依頼して2035年の推計人口を試算した。その推計人口は3065人。小学校1クラスの人数にすれば、現状の28.9人から12.5人までの減少だ。1クラス20人を維持しようと思えば、親2人子2人の家族を毎年5世帯受け入れる必要がある。そのためには、住む場所と働く場所を作り出さなければならない。

 神山町が直面している過疎化、少子化、経済の衰退といった課題を解決するためには、子供を連れた若者夫婦や起業家の移住が不可欠。だからこそ、移住交流支援センターの運営方針でも、「定住希望者や若年者、起業家などへの案内を優先させる」と謳っているわけだ。これは、役所主体の移住支援ではなかなかできないことだろう。

 こうして始めたワーク・イン・レジデンスもまた、この1~2年でさらなる進化を遂げている。

コメント1

「ひらめきの一刹那」のバックナンバー

一覧

「新たなクリエイティブは「神山モデル」が作り出す」の著者

篠原 匡

篠原 匡(しのはら・ただし)

ニューヨーク支局長

日経ビジネス記者、日経ビジネスクロスメディア編集長を経て2015年1月からニューヨーク支局長。建設・不動産、地域モノ、人物ルポなどが得意分野。趣味は家庭菜園と競艇、出張。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

子会社とどう向き合うかで、その企業のガバナンスを判断できる。

牛島 信 弁護士