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“五輪職人”が語ったモノ作りの未来

「Made in Japan」強さの源泉を見た

  • 伊藤 正倫

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2012年7月25日(水)

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 埼玉県富士見市。東武東上線の最寄り駅から車を15分ほど走らせたところに、“五輪職人”の工房がある。

 辻谷政久氏。1996年のアトランタ五輪から3大会連続で、「砲丸投げ」の金・銀・銅メダリストが彼の作った砲丸で記録を出した。肩書きは、スポーツ用品を製造する辻谷工業の代表取締役だが、日本のモノ作りを代表する職人の1人として名が通っている。

 辻谷氏に取材をしたのは7月6日。日経ビジネス7月23日号の特集「ロンドン五輪裏ガイド」の執筆のためだ。小さな商店街の一角にある社屋に入ると、薄暗い室内に年代物の工作機械が無造作に並ぶ。広さは学校の教室ほど。

 入り口近くの椅子に座らせてもらうと、辻谷氏は奥から冷えた缶コーヒーを出してくれた。「もうすぐ80歳。あんまり遅い時間だと、取材を受けるのも体力的にきつくて…」と話す。ロンドン五輪の開幕を前にして、ほかのメディアからの取材依頼も多いという。

本社内の辻谷政久氏(写真:大槻純一、2007年10月撮影)

 辻谷氏の砲丸を世界中の選手がこぞって使用するのは、球の重心がピタリと中心にあっているため、投げる力が球に効率よく伝わり、飛距離を稼げるから。裏を返すと、微妙な重心のズレによって、選手が手にするメダルの色が変わりかねないというわけだ。重心を中心に合わせる秘訣を尋ねると、「経験と勘としか言いようがない」。

コンピューターでは絶対にできない

 材料は鋳物。“ほぼ球体”のものを仕入れ、旋盤でそれを削りながら“ほぼ完全な球体”に仕上げる。ここまでは、辻谷氏でなくてもできるだろう。だが、鋳物は内部の密度が微妙に異なり、形を“ほぼ完全な球体”にしても重心が球の中心に来るとは限らない。しかも、材料1つ1つで内部の密度が違う。「触ると手が自然と動く」という程に使い込んだ旋盤を使いながら、球表面の色つや、削った時の音などを頼りに重心の位置を調整していくのだ。

 「コンピューター制御の旋盤では絶対に重心が真ん中には来ない」と辻谷氏。その証拠に、辻谷氏の砲丸が世界を席巻すると、米国企業から「週給2万ドルで技術指導してくれないか」と破格のオファーが届いたという。

 “引き抜き”である。日本で事業を続けても絶対に得られない報酬だっただけに随分悩んだが、最後は「技術を海外に流出させられない」と断った。その後も、引き抜きは後を絶たなかった。「中国企業は月収50万円で新車、家、メード付きの条件だった。先の米国企業に比べると条件は悪く、もちろん断りましたがね」と笑った。

 この話を聞いた時、「こんなところにまで中国の引き抜きの手が伸びているのか」と筆者は驚いた。自動車や家電といった大企業の技術者から、金型などの中小企業経営者まで、高額の報酬にひかれて中国に渡る人材は多い。だが、砲丸投げは世界的にもメジャーなスポーツとは言い難く、仮に世界一の砲丸メーカーとなっても収益面で大きな見返りは期待しにくいからだ。

 辻谷氏は話を続けた。「日本のモノ作りの未来は中国次第だ。中国には品質の悪いコピー品も相変わらず多いが、本気で技術レベルを上げようと努力している人々も少なくない。例えば、中国製の工作機械を見ていても、ここ数年で品質は劇的に高まっている」。

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