• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

国盗りの闘争とスパイ合戦のさなかで

その2 チャイナ・ナインはいつ決断したか

2012年9月13日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 中国のトップ“チャイナ・ナイン”、すなわち中共中央政治局常務委員会委員のメンバーになる。薄熙来にとって最大の目的はこれだった。

 中国では一般に、中共中央政治局委員が「スパイ」と関係している要素が一つでも明らかになると、即刻、候補から外される。

 前回紹介したように、薄熙来の息子、薄瓜瓜の留学の後見人であるパウウェル卿は「諜報のプロ」である。しかし、彼の経歴が注目され、公に露わになったのは前回述べたようにごく最近のこと。薄熙来にとって、パウウェル卿はあくまでもサッチャー元首相やメージャー元首相の個人秘書であり、英中貿易協会の主席であったはずだ。パウウェル卿はオックスフォード大学の評議委員会の議長でもある。権威に疑いようはない。

 パウウェル卿にもう一つの顔があったということに、薄熙来も中国も気づいていなかったに違いない。パウウェル卿は薄瓜瓜の後見人になる前の2000年から諜報会社Diligence-Global Business Intelligenceの顧問をしていたのだが、薄熙来がもしパウウェル卿のこの一面を知っていたら、すぐに関係を断っていただろう。中共中央政治局委員として、「諜報関係者」との接触は鬼門であることは常識中の常識だからだ。

 しかしパウウェル卿は、中国という国にとって長いこと英雄のような存在だった。なんといっても彼は「2001年の中国のWTO加盟に多大な功績があった」ということで、中国では非常に高く評価されている人物なのだ。

中国では非常に高く評価されていたパウウェル卿

 パウウェル卿が中英貿易協会の主席になったのは1998年。

 ときの国務院総理であった朱鎔基(98年)も、また江沢民国家主席(99年)さえ訪英してパウウェル卿と会い、写真に納まっている。そのころまだ副総理でしかなかった温家宝も99年と2000年に訪英してパウウェル卿に会っている。すべてはWTOに加盟するという悲願を果たすための訪英だ。2001年に晴れてWTO加盟を果たすと、今度はパウウェル卿が中国に招かれて、当時の胡錦濤国家副主席と対談した。

 2005年11月8日には、今度は胡錦濤国家主席が英国を訪問し、エリザベス女王を表敬訪問。イギリス時間の9日にはパウウェル卿と会談している。

 それを先立つ11月7日、薄熙来が商務部長(2004~2007年)という立場で150名からの商業関係者を引き連れて英中貿易協会主催の晩餐会に出席した。

 この晩餐会の主宰者こそ、当時、英中貿易協会の主席をしていたパウウェル卿(中国語では「鮑威爾(バオ・ウェイ・アル)・爵士」あるいは「鮑威爾・勛爵」だったのである(これを報じた人民網のニュースはこちら)。薄熙来とパウウェル卿が初めて会ったのは、このときではないかと推測される。

 「公爵」は中国の古来からの爵位ランクの中でも最高の位。

 心の中では「欧米崇拝アジア蔑視」の視点を強く持っている薄熙来夫妻にとって、「イギリス貴族」のような存在であるパウウェル卿は眩しいばかりの存在だっただろう。薄熙来は90年代、大連を「北の香港」として洋風化し、谷開来は同じく90年代に『勝訴在美国』(アメリカにおいて勝訴す)という本を書いて、「アメリカ」を強調している。自分たちの息子・薄瓜瓜をイギリスやアメリカに留学させていることからも、その視点は十分に推測できる。

 薄熙来はそのパウウェル卿の「七光り」を笠(かさ)に着て、チャイナ・ナイン入りのためのアピールに彼とのコネクションを活用した。

 代表的なのは、2011年5月12日におけるイギリスのアンドルー王子の訪中だろう。アンドルー王子は人民大会堂で李克強・国務院副総理と会見した(記事リンクはこちら)。そこには英国の王子と中国の次期総理となる李克強のツーショットが輝いている。

 驚くべきは、アンドルー王子がこれに引き続いて薄熙来が書記を務める重慶を訪問していることだ。

 薄熙来は、アンドルー王子との会見の場に、市長(黄奇帆)さえ出席してはならないと厳しく命令。李克強に対抗して薄熙来とアンドルー王子のツーショットを大きく報道しようとした。薄熙来は自分を「中国の未来のpresident(大統領)」としてパウウェル卿やヘイウッドに宣伝している。サッチャー元首相やメージャー元首相の個人秘書として尊敬を集めていたパウウェル卿は、王子のスケジュールにも影響力を発揮し、訪問先に重慶を組み込んだのではないか。

 だが、中共中央は、中国政府の新聞である新華網を通して「絶対に薄熙来とアンドルー王子の写真を掲載してはならない」という強力な指示を全国に出していた。だから全国紙はもとより、重慶の地方紙も地方テレビも、「薄熙来とアンドルー王子のツーショット」を載せていない。「未来の国務院総理は、この俺様だ。李克強ではない」とアピールしたかった薄熙来の狙いは、これで外れた。

コメント4件コメント/レビュー

この秋に中国国家主席に内定していた習近平氏が今月1日以降、行方が分からなくなっています。NHKがこの件を昨日(12日)ニュースにしたところ、中国現地ではテレビが真っ黒になってNHKを視聴できなくなったそうです。現在、日本の国会議員や要人の訪中をドタキャンで断っていますが、「尖閣抗議」は目眩しで習近平氏や中国共産党指導部に何か重大な事態が起こっていて、それを日本に知られたくないからだと思っているのですが。(2012/09/13)

「中国国盗り物語」のバックナンバー

一覧

「国盗りの闘争とスパイ合戦のさなかで」の著者

遠藤 誉

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

筑波大学名誉教授

1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士。中国で国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、日本では内閣府総合科学技術会議専門委員などを歴任。2児の母、孫2人。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

この秋に中国国家主席に内定していた習近平氏が今月1日以降、行方が分からなくなっています。NHKがこの件を昨日(12日)ニュースにしたところ、中国現地ではテレビが真っ黒になってNHKを視聴できなくなったそうです。現在、日本の国会議員や要人の訪中をドタキャンで断っていますが、「尖閣抗議」は目眩しで習近平氏や中国共産党指導部に何か重大な事態が起こっていて、それを日本に知られたくないからだと思っているのですが。(2012/09/13)

いやあ、遠藤先生の筆先の説得力には脱帽です。(2012/09/13)

素晴らしい推理ですね。洗練された推理小説を読んでいるようでした。最後の結びも余韻を残していますね。素晴らしい。(2012/09/13)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

テスラのような会社と一緒にできないのなら、パナソニックはイノベーションを起こせないだろう。

津賀 一宏 パナソニック社長