今回は、日本でバイオ燃料が普及するための方策について、私見を述べる。休耕田を利用して、農業基盤強化とエネルギー自給の両立に活路を求め、国産国消・地産地消を進め、それを基盤にバイオ技術開発に弾みをつけるのだ。
農業政策としてのバイオ燃料
本シリーズの第1回、第2回で諸外国のエタノール事業を紹介したが、例外なく相当規模の穀物由来エタノールが流通している。畜産大国の米国はトウモロコシ、砂糖大国のブラジルはサトウキビ、欧州は小麦・ビート由来が多い。畑作が主の欧州では、輪作の一環として菜の花などを植え、軽油代替燃料としても使用している。しかも歴史がある。これは、それぞれの国策と密接に関わっている。
食糧の安定供給は最重要政策である。主要穀物は生産を過剰気味にして量の確保と低価格を実現する。これは「食糧政策」である。一方、その結果生産者の所得は低いか不安定化することになるが、価格支持や所得補償で補填し生産を継続してもらう(農村地域を維持してもらう)。これが「農業政策」である。
この結果、どうしても主要穀物は余り気味になるが、先進国は、かつては途上国など向けの輸出で調整していた。これは、途上国などの国内生産を破壊する「補助金付き輸出」と批判されるようになり、撤廃することになった。そこで注目されたのが燃料化による調整である。バイオ燃料は、そもそもこうした基盤の上にある。国産エネルギーの確保、輸送用燃料のCO2対策は、時代の流れの中で付け加えられたものである。欧州は、本音はエネルギー・セキュリティにある。換言すると農業政策による基盤があったので、新たな政策への対応が可能になったと言える。
農業関係者にとって余剰穀物の燃料化は悪い話ではない。市場が食糧関係だけだと、安定供給政策を背景に低い所得に甘んじるし、気象状況などによる変動も受ける。国としては、農業予算が増える。エネルギー市場が別途あると、2つの市況を見ながら柔軟に対応できる。補助金の代わりに市場メカニズムを使うことによって、米国政府は農業予算削減に成功した。米国のトウモロコシ農家は飼料、食用、エタノール、輸出などをみながら販売先を決める。組合を作ってエタノール生成事業にも乗り出している。日本で力を入れつつある「6次産業化」である。
ブラジルのサトウキビ農家は砂糖とエタノールの市場を見て供給を判断する。砂糖工場とエタノール工場は同一工程上にあり、製造事業者もある程度分量を調整できる。フレックス車(FFV)は、最終用途における調整機能をもつ。前回、十勝の規格外小麦は、燃料用に回るとするだけで、数倍に値段が上がったことを紹介した。規格外と言っても、もともとそれだけの価値があったのである。
ようやくまともな再生エネルギーの記事に出会った。水稲という植物は、高効率で太陽エネルギーをデンプンへと変換する。これを醗酵してアルコールにし、自動車燃料や燃料電池に利用すれば、CO2を増やすことなくエネルギーを確保できる。一方で基幹食料の自給にも繋がる。コメだけでなく大量に廃棄されている果物類(桃、メロン、ブドウ等)もアルコールの原料としては申し分ない。日本にはたくさんの酒造・醸造所があり、アルコールを生産するインフラも技術者も既に整っている。(2012/10/04)