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白隠が描いた“ぎょろり”のアバンギャルド

生涯1万点もの絵を描き伝えたかった禅の心

2013年2月1日(金)

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 開催中の美術展やアートイベントを巡りながら、アートの深部に迫る「アートいろは坂」。今回は、江戸時代の禅僧、白隠慧鶴(はくいんえかく)が描いた絵のユニークな表現にスポットを当てる。美術史上でも異彩を放つ大胆で機知に富んだ作風はどのようにして生まれたのか。「白隠展」を開催している東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムを訪ねた。

 江戸時代中期の禅僧、白隠慧鶴(1685~1768年)は26歳の時、過度の修行がたたって心身を病んだという。しかし、臨済宗の中興の祖となる人物だけあって、常人にはない力を持っていたようだ。体のすみずみにエネルギーを巡らせる「軟酥(なんそ)の法」などの特殊な方法で自らの体を治癒した。白隠はそんな逸話を、自著「夜船閑話(やせんかんな)」で伝えている。

 実に謹厳実直で厳しい宗教者だった。それが白隠の実像だという。ならば、筆を持つと人が変わるのか。あるいは、修羅場を若くしてくぐり抜けた経験から、狭い視野や硬直した考え方を脱したことの表れが絵になったのだろうか。白隠が描いた絵には、そんな想像をさせるほど自由奔放な印象を受けるものが多い。

 白隠は、作品制作に情熱を燃やして斬新な作風を生んだピカソや岡本太郎のような美術家とは違う。にもかかわらず、いわゆる「真面目」とは対極にあるような型破りな作風を生み出した。日本美術史を見渡しても、類する前例は見当たらない。「アバンギャルド」という言葉を使ってもいいだろう。何が白隠の筆を動かしていたのか、知りたくなる。

真面目の対局にある型破りな作風

 この展覧会の会場に入ると、「隻履達磨(せきりだるま)」と題された個性的な絵がいきなり正面で出迎えてくれる。禅宗の開祖、達磨大師が片方(=隻)の履き物(=履)を手にした姿を描いた大作だ。室町水墨画の巨匠、雪舟が「慧可断臂図(えかだんぴず)」(国宝)で描いた達磨は、洞窟の中でじっと壁と向き合って修行する様を表していた。だが、白隠の達磨は、画面のこちら側に向かって猛烈な存在感を主張する。

白隠慧鶴「隻履達磨」
白隠慧鶴「隻履達磨」
(190×107.7cm、紙本墨画淡彩、長野県、龍嶽寺蔵)

 縦1.9メートルの画面で太い墨線を大胆に走らせて描いた姿は実に豪快である。人間のものというよりもまるで弾丸のような形をした何かが突き出たような禿頭、そして、ありえないほど“ぎょろり”とした目玉。紡ぎ出された表情は、なかなかユーモラスだ。

 達磨が片手に持った履き物が象徴する「隻履達磨」は、禅画では馴染み深い画題だという。3年前に亡くなった達磨と宋雲という僧侶の西域に行く道すがらでの不思議な出会いの場面を描く内容だ。白隠のこの絵からは、この世にいないはずの達磨に突然出会った宋雲の驚きまでが伝わってくる。一方で、達磨の顔のほんのりとした赤味が画面全体に温かみを醸し出し、親しみやすさをにじませている。驚きと親しみの同居。それは、白隠の絵の重要な本質の一つと見ていい。

 この展覧会の共同監修者の一人、山下裕二・明治学院大学教授は「この絵は白隠の自画像でもある」と話す。両目が斜視で描かれているのが、ほかにある自画像などの表現と一致することから類推できるようだ。洋の東西を問わず、果たしてこれほど主張の強い自画像を描いた画家が、ほかにどれくらいいただろうか。

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「白隠が描いた“ぎょろり”のアバンギャルド」の著者

小川 敦生

小川 敦生(おがわ・あつお)

多摩美術大学美術学部芸術学科教授

日経マグロウヒル社(現・日経BP社)入社後、日経アート編集長や同社編集委員を経て、日本経済新聞社文化部へ。美術担当記者として多くの記事を執筆。2012年4月から現職。専門は美術ジャーナリズム論。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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