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「米国の圧力で医療は崩壊」する?しない?

TPP議論の前提として知ってほしいこと・医療編1

2013年3月15日(金)

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 2月下旬に行われた日米首脳会議の結果を受けて、日本はTPP交渉への参加に大きく踏み出しました。その結果、先行事例である「韓米FTA」に対する興味がこれまでにも増して高まることが予想されます。

 私は昨年の3月から10月にかけて、日経ビジネスオンラインで「TPPを議論するための正しい韓米FTA講座」を連載しました(そこまでの連載は『TPPの正しい議論にかかせない米韓FTAの真実』にまとまっています)。

 この連載を通して、日本でよく取り上げられる韓米FTAの問題点は、韓国のマスコミによる反・韓米FTAキャンペーンの報道がそのまま輸入されていることを指摘しました。さらに、これらの報道に対して、ほぼ例外なく政府が反論を加えています。

「韓米FTAはこんなに一方的、だからTPPも同様に危険だ」

 ところが、政府側の反論は日本には伝わっていません。このため「韓国政府は米国に屈従した(だから日本は絶対TPPに参加してはならない)」ような印象が一人歩きしています。そこで連載では、果たして韓米FTAによって韓国の経済・社会に問題が生じるのかの判断材料として、韓国政府の反論を詳しく紹介してきました。

 日本のTPP参加が具体化したことを受けて、またまた韓米FTAの問題点を刺激的に取り上げる動きが始まっています。前回の連載では、政府の反論をすべて網羅して紹介しきれませんでした。また、昨年末から今年にかけて、韓米FTAに関する新しい動きが出ています。そこで昨年の連載の続編として、これらを解説していきたいと思います。

 最初のテーマは医療分野です。

 この分野も実に様々な面から、「韓米FTAは韓国の経済・社会に悪影響を及ぼす」と主張されています。具体的には、(1)国民健康保険に関して政府の政策自由度がなくなる、(2)営利法人が認められることにより医療費が青天井になる、(3)薬の価格を決定する際に、政府などから独立な検討機関が評価することにより、価格が大きく高まる、が挙げられます。

 第1の点、「国民健康保険に関して政府の政策自由度がなくなる」から見ていきます。

 韓国の京郷新聞は、「政府によれば、健康保険など法定社会保険は、韓米FTAの適用から除外されているため、現在の体系を維持できるとしている。しかし韓米FTA第13章(金融サービスに関する章)では、社会保険は第13章の適用を受けない点を定めているが、社会保険が民間と競合する領域では適用が排除されないとの例外を規定している」として、この例外規定によって、政府が国民健康保険に関して講ずる政策の自由度が失われると結論づけています(注1)。

 つまり韓米FTAでは、但し書きで義務の対象外とした国民健康保険を、更なる但し書きで義務の対象としており、政府の政策裁量権が大きく損なわれるではないか、というわけです。

まずは条項をしっかり読んでみる

 政府(保健福祉部)の反論を見る前に、問題となっている条項を読んでみましょう。

 韓米FTA第13.1条では、金融サービスにかかわる義務などを定めた第13章の適用範囲を示しています。これによれば、政府が講ずる金融サービスにかかる政策は原則的に適用範囲となります。ここで重要なのは第3項で、FTAの適用から除かれる政策が規定されています。

 第3項では、「第13章は、(a)号、(b)号に関して、当事国が導入するあるいは維持する措置に対して適用しない」(注2)と規定されています。そして(a)号には、「法定社会保障制度の一部を構成する活動やサービス」が含まれています。国民健康保険が「法定社会保障制度の一部を構成する活動やサービス」であることには明らかですので、第13条に規定されている金融サービスに関する自由化の義務は、国民健康保険には適用されないこととなります。

 しかし同項の最後に、「ただし、当事国が自国の金融機関に対して、(a)号、(b)号に言及されるいずれかの活動およびサービスを、公共機関または金融機関と競争して行うことを許す場合には、第13章が適用される」との但し書きが加えられています。この但し書きによって、国民健康保険にかかる政府の政策に、韓米FTA第13章の義務が課される余地が出てきます。

 つまり、国民健康保険に関する政策に、金融サービスに関して定められた義務が課されるか否かは、第13.1条第3項の但し書きで示された例外に該当するかどうか、によって決まります。

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「「米国の圧力で医療は崩壊」する?しない?」の著者

高安 雄一

高安 雄一(たかやす・ゆういち)

大東文化大学経済学部教授

1990年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、調査局、外務省、国民生活局、筑波大学システム情報工学研究科准教授などを経て現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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