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TPPやFTAに反対するなら、まず条文をよく読もう

薬や治療費は高騰するのか?:医療編2

2013年3月27日(水)

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 突然ですが、筆者は「日本は何が何でもTPPを締結せよ」、と、ここで主張する気はありません。ですが、韓国研究者の一人として、TPP参加が国益に叶わないとする例証に、一足先に韓国が米国と結んだFTA(自由貿易協定)を挙げるのはどうか、と思っています。

 韓国国内では締結の前から現在に至るまで、FTAによる影響を危惧する声が絶えません。しかし筆者が見る限り、その危惧はFTAの条項をきちんと読めば根拠のないものであったり、そもそもFTA締結以前から別の協定が結ばれているものだったりすることが非常に多いのです。

 条項を熟読するのは、専門家以外にはなかなか荷が重いものですし、本連載も必ずしも読みやすいものとは言えないかもしれません。しかし、国際間のものに限らず、約束事について、条文をきっちり読まずに論じるのはどう考えても間違っています。

 「結論だけ示してくれ」という方に配慮して、細かい部分は囲みや脚注にするなど、工夫していこうと思いますが、少なくとも国際条約に関しては、「細部を語らずに説得力のある説明はできない」と、私は考えております。

 危機、国難を叫ぶ声は耳に届きやすい。しかし、彼らが本当に条文を真摯に読んだのかどうかは、常に問わねばならない。韓米FTAを巡る韓国内の報道や論争を見て、強く思います。

薬価暴騰、盲腸の手術で100万円!?

 さて、前回(「『米国の圧力で医療は崩壊』する?しない?」)に引き続き韓米FTAの医療分野を扱います。今回のテーマは「営利法人が認められることにより医療費が青天井になる」、「薬の価格を決定する際に、政府などから独立な検討機関が評価することにより、薬価が急激に高くなる」という説についてです(もし今回からお読みになるのでしたら、前回の後半の、韓国の医療保険制度についての説明を、先にお読みになると理解がしやすいと思います。上のリンクをお使い下さい)。

 最初に「営利法人が認められることにより医療費が青天井になる」といった主張です。

 この説は韓国のインターネットやツイッターを通じて流布していますが、韓国最大の新聞、朝鮮日報によれば、「韓米FTAの発効後に医療機関が民営化されれば、胃の内視鏡が4万ウォンから100万ウォンに、心血管造影手術が14万ウォンから430万ウォン、冠状動脈迂回手術が350万ウォンから4140万ウォン、虫垂炎手術が30万ウォンから900万ウォンに跳ね上がる(1ウォンは約0.08円)」と、ツイッターで広まったそうです。なお同紙はこの主張を「怪談」と断じています(注1)。

 ハンギョレ新聞は、「韓米FTAが発効すれば、医療サービス、教育サービス、郵便配達サービス、通信サービスなどで、アメリカ企業が参入しやすくなると、アメリカ商務省が報告している」と報道しています(注2)。その上で、韓米FTAによって、経済自由区域内で営利病院を設立する際の障壁がなくなったとしています。

 さらに京郷新聞やハンギョレ新聞は、「営利病院に問題が生じても、営利病院の閉鎖は不可能である」、「営利法人の許可が固定化してしまう」との趣旨の報道を行っています(注3)。

 「許可が固定化」というところは、説明が必要ですね。現在、韓国では営利法人が医療機関を設立することはできず、特区においてのみ許可されます。FTAの締結以前ならば、特区の根拠法から営利医療を許可する条文を削除(あるいは特区の根拠法を廃止)するなどして、特区も含めて全国すべてで「許可しない」方針に戻すことができました。

「日本もTPPで医療崩壊」の元ネタに

 韓米FTAにおいては、医療サービスは未来留保とされており、これにかかる政策はどのように変えてもいいのですが(「ラチェット条項」は適用されないわけです)、特区法に関する事項については留保から外されています。

 よって特区において営利医療機関の設立許可を禁止した場合、市場アクセス義務に抵触する可能性が出てきます。これをもって「許可が固定化されてしまう」という反対論が出てくるわけです。特区という限定された地域についてですが、確かに「営利病院の許可が固定化する」可能性は否定できません。

 これらの主張はそのまま日本に伝わり、「韓国ではFTAで営利病院が認められたので、アメリカ型の営利医療法人による高額な診療費が、韓国の医療サービス費の標準となる」、「自由経済区域で営利病院の設立が認められていることが蟻の一穴となり、韓国全土にこれが広がることとなる」といった話に膨らんでいるようです。

 韓国政府の反論を見る前に、韓国で設立が認められている医療機関の形態について説明が必要でしょう。

コメント6件コメント/レビュー

TPPとアメリカの医療サービスと言う事で限定して言えば、確かにオバマ大統領はアメリカ国内で国民皆保険制度を実現しようと舵を切る方針を打ち出しています。それによって、割を食う業界はどこでしょうか。その業界が次に狙う市場はどこでしょうか。日本の医療サービスはWHO(世界保険機構)から「健康達成総合評価第1位」と評価されています。因みにアメリカは15位。更に言うとアメリカの医療費対GDP比率はOECD諸国の中でも突出して高い約18%(およそ84兆円の患者負担)です。日本は約10%(およそ40兆円)。TPPに参加する、と言う事はゆくゆくは日本もアメリカのように医療水準(医療技術水準ではない)が下がり、高額医療費を負担しなければならなくなる可能性が非常に高いのです。一業界に関することではないのです。(2013/03/27)

「TPPを議論するための正しい韓米FTA講座」のバックナンバー

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「TPPやFTAに反対するなら、まず条文をよく読もう」の著者

高安 雄一

高安 雄一(たかやす・ゆういち)

大東文化大学経済学部教授

1990年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、調査局、外務省、国民生活局、筑波大学システム情報工学研究科准教授などを経て現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

TPPとアメリカの医療サービスと言う事で限定して言えば、確かにオバマ大統領はアメリカ国内で国民皆保険制度を実現しようと舵を切る方針を打ち出しています。それによって、割を食う業界はどこでしょうか。その業界が次に狙う市場はどこでしょうか。日本の医療サービスはWHO(世界保険機構)から「健康達成総合評価第1位」と評価されています。因みにアメリカは15位。更に言うとアメリカの医療費対GDP比率はOECD諸国の中でも突出して高い約18%(およそ84兆円の患者負担)です。日本は約10%(およそ40兆円)。TPPに参加する、と言う事はゆくゆくは日本もアメリカのように医療水準(医療技術水準ではない)が下がり、高額医療費を負担しなければならなくなる可能性が非常に高いのです。一業界に関することではないのです。(2013/03/27)

TPPに反対しているのは医療保険の関係者よりも医師や病院という印象があります。彼等が医療の自由化に反対しているのは医療技術に於いて日本はアメリカに比べて劣っているので競合した時に負けてしまうという恐怖が原因かと思っていました。それをそのまま表現すれば国民から笑われてしまうので「治療費が高くなる」とか「保険治療が出来なくなる」という根も葉もない話をでっち上げて「だから国民一致団結してTPPに反対しよう!」と叫んでいるのだろう。多分、技術に自信を持っている医師は開業医であれ大病院の医師であれ、反対はしていないのだろうと思う。謂わば出来の悪い医師が名目を見つけては反対しているのだと判断している。大体に於いて、アメリカ人の医師が日本に来て診察を始めてどれだけの患者が受診に行くのか考えれば分かる。特別な技術でも持っていない限り経営は難しいだろう。多分、具体的な進出方法は既存の民間病院への資本参加か、優秀な日本人医師を雇って新たな病院を始めるかといった方法だろう。優秀な技術を持った医師が自由診療で高い対価を請求しても受診出来る人と出来ない人がいる。出来ない人は保険診療で我慢すれば良い。現在でも国内で治療出来ない為大金を用意してアメリカに手術に行くというニュースは見る事がある。それが国内で出来る様になるのであれば結構な事だと思う。ただし、それらは現在の保険診療の制度が残るという前提に於いてだが。この記事が指摘している様に、アメリカが日本に「保険診療制度を止めろ!」と要求するとは考え難い。ヨーロッパでも日本以上の医療費の公的補助が存在している国も少なくない。それらの国が保険制度をやめたと言う話も聞かないし、逆にオバマは国民皆保険を定着させる様に頑張っている。あり得ない事が「起こる」と国民の不安を煽るのは正に、それを行っている彼等の不安そのものだ。彼等に「もっと勉強しろ!」と言って上げたい。(2013/03/27)

薬価制限に関しては、国内での運用規定が存在しても、それ自体が非関税障壁として撤廃させられる可能性があります。医療特区に関しても、「国民健康保険の適用外になるのは非関税障壁」とされ、混合診療を強制され、医療保険料の増加(もしくは撤廃)→アメリカの保険会社の進出→医療格差の増加、と容易に想像できますが・・・韓国でもGDPが落ちているのにも拘らず、徐々に医療費があがってきていることは事実なのですから認めましょう。1円でも物価が上がったらハイパーインフレ(笑)を唱える論者が、医療費の暴騰はないと論じているのにも違和感を感じます。少なくとも秘密主義の交渉ですから、国民に正確な情報が開示されないことや、ラチェット規定で、保険が危ないと思っても条件を戻せない事はどうお考えなのですか?国民が「こうしたい」と思っても出来なくなるような条約は民主主義の否定ではないでしょうか。(2013/03/27)

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