• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

アップルの強みを知財情報から読み解く

経営戦略の柱、「デザ・ドリ」とは?

2013年5月1日(水)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 企業経営に関して様々な価値観や考え方がある中で、「イノベーションが重要である」という点は、ほぼ異論がないところであろう。イノベーションを起こした企業は数多くあるものの、グローバルで認められる企業といえば、その代表はアップルだ。4月23日に発表された1~3月期の決算では10年ぶりの減益となり、その成長路線に転機が訪れたとはいえ、「iPod」「iPhone」「iPad」とアップルが生み出してきた一連の製品は、ユーザーに新たな体験を与え、そして新市場を創出したのは間違いのないところだ。

 アップルのイノベーションの源泉は何か。その経営戦略の柱は、「デザイン・ドリブン・イノベーション」(以下、「デザ・ドリ」と略す)という新たな言葉にあると説明する向きがある。後で詳しく述べるが、ここでいう「デザイン」とは単に外観を表すものではなく、「顧客に対する快い体験の提案」を意味する。すなわちデザ・ドリとは、顧客に対してこれまでと全く違った快い体験を提案することがイノベーションを生み出す、ということであり、まさにこれまでのアップルの製品群にあてはまるといえよう。

 そして、このデザ・ドリという経営戦略をより強固にするために重要となるのが知的財産権だ。どんなに良いデザイン、すなわち「顧客に対する快い体験の提案」ができても、その重要なデザインを守らなくては、せっかく生み出した新たな市場も、すぐにライバルに食い荒らされてしまう。知的財産権によって「壁」を作っておかないと、“似た製品”が市場に蔓延してしまうわけだ。

 その点、アップルはこの知財戦略も巧みで、作り出したデザインの周りに大きな「壁」を築き上げ、そして新市場のうまみをおおいに享受してきた。新市場の権利になるべく穴が生じないように、知的財産権で多角的に保護しているのだ。逆に言えば、アップルの知的財産権を分析すれば、彼らが何を守ろうとしてきたか、そして今後は何を守ろうとしているのか、その経営戦略を浮き彫りにできる。

 本連載では、グローバルに著名な企業の経営戦略を、知的財産権の分析から浮き彫りにする。それとともに、イノベーションを起こすためには、どのような経営戦略を取るべきなのか、その指針を得ることを目的とする。今回は、アップルの経営戦略の柱であるデザ・ドリを解説するとともに、アップルの知財戦略を、そのライバルの一番手ともいえるサムスン電子と比較して分析してみる。

デザイン・ドリブン・イノベーションとは何か

 日本語では「デザイン主導型イノベーション」ともいえるデザ・ドリは、著名な経営学者であるマサチューセッツ工科大学(MIT)スローン大学院のジェイムス・M・アッターバックやミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティらが提唱しているものだ。ただし、日本ではこれまで思ったほど注目されてこなかった。

 先にも述べたように、ここでいうデザインは外観といった狭い意味ではなく、「顧客に対する快い体験の提案」を意味する。といっても理解しにくいと思うので、デザ・ドリに成功したとされる具体例を挙げよう。最新の商品ではないが、分かりやすいのは1983年に誕生した「スウォッチ」だ。1960年代から台頭してきた日本の時計メーカーの安くて正確なクォーツ時計により、スイスの腕時計業界は壊滅状態となった。そのようなスイスの時計業界を救ったのが、まさにスウォッチであった。

 スウォッチは、時計の「技術(テクノロジー)」や「職人技」、あるいは機能の「改善・改良」という従来の延長線上で勝負するのではなく、全く違う土俵、すなわち新市場で勝負した。時計というと、それまで基本的には「時刻を確認できる」機能を持つ「機械」であった。これをネクタイと同じように、何本も所有することを前提にTPOに合わせて「着替える」ことができる「日常ファッション」という新しい「意味」を時計に与えた。

 決して誤解しないでほしいのは、スウォッチが単にスタイリングを良くしたことで成功したのではないこと。少し前の経営学、特にマーケティングの本の中には「デザインは成熟市場の中で他社製品との差別化を図る要素である」という説明をしているものもある。しかし、そのような考え方は完全に古い。スウォッチは「他の時計より外見を良くしたことで成熟した時計市場という一つのパイの中の取り分を他社より増やして成功した」のではない。「従来の腕時計の延長線にない革新的に新しい意味・体験(日常ファッション)を提案したために、従来の顧客に対して新たな需要を生み出しただけでなく、従来顧客でなかった層まで新たな顧客とすることでファッション時計市場という既存市場とは異なる新しいパイ(市場)を生み出すことに成功した」と捉えるべきだからである。

コメント0

「知財情報から見える企業イノベーション」のバックナンバー

一覧

「アップルの強みを知財情報から読み解く」の著者

杉光 一成

杉光 一成(すぎみつ・かずなり)

金沢工業大学教授

博士(工学)。弁理士。東芝・知的財産部、特許事務所、経済産業省委員等を経て現在に。「知的財産検定」を開発。これからの知的財産人材像として「知的財産アナリスト」という新しい職種を提案している。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

小林 誠

小林 誠(こばやし・まこと)

AIPE認定 知的財産アナリスト

製造業を中心としたクロスボーダーのM&Aアドバイザリー、知的財産デューデリジェンス、知的財産価値評価、技術起点の新規事業開発支援、知的財産マネジメントコンサルティングなどの業務を専門とする。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

コメント入力

コメント(0件)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

人々が働きたいという会社になるには 「働きやすさ」と「働きがい」、この2つが必要だ。

川野 幸夫 ヤオコー会長