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280円のせいろと、あじねぎ天の幸せ

立ちそば二食目:渋谷「S」の巻【承前】

2013年6月5日(水)

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担当編集Yでございます。男の昼飯、立ち食いそば(本編では「立ちそば」と呼称)に、女子イラストライター、イトウエルマさんが真っ向から挑むこの企画。第1回は注文に迷いまくって、まさかの実食前で終了。「いいから早く喰え!!!」と、読者の皆様に突っ込まれ放題となりました(そんな前回はこちらから)。右往左往とミス連発にもめげず、運ばれてきたせいろそば。ところが…!?

「しまった!」

「細麺の指定をするのを忘れた!!」

 せいろの上に載っているのは、平麺。
 細麺を頼むと決めていたことをすっかり忘れていたのだ!

 しかし、今は打ちひしがれている時間はない。
 ここは全力で、少なくとも三分の一は、出来立ての美味しさを満喫せねばならない!

 そばの色は、淡い。薄い緑のような、紫のような、灰色をしている。つやつやと輝いている。
 そして、(手打ちのそばで、もてはやされる)角も立っている!むしろ、手打ちのそばよりも、ずっと立っている!水ようかんを切ったかの様にきらめく、整然としたエッジを見せつけてくる。

 味はどうだろう。
 先ずはつゆも浸けず、そばをそのまま味わう。

 ズズッ!
 く…悔しい。
 正直に言おう。

 これは、自分程度の人間の味覚ならば、超名人の打つそばだと勘違いをしかねないほどであります。もしも店先に、険しい目で遠くをみつめる、腕組みをした頑固そうなオヤジが立っていたら、帰りがけに、

「いいおそばでした。香りも上品です。これほどの喉越しと歯ごたえを持った十割そばに、出会ったことはありません。感動しました」

 …位のことは口走ってしまいそう。

 外殻は挽き込まれていない。「挽きぐるみ」(そばを丸ごと挽いてできた粉)故、そばらしい味、香りが僅かばかりである中心部も含まれる。香りは製粉業者がブレンドして提供するそば粉で打つ十割そばに比べると若干弱い。

 しかし!
 そこは一切のつなぎが入らない十割。そばの香りはちゃんとしている。
 挽きぐるみらしい透明感も美しい。
 しかも、喉越しが、コシが、素晴らしい!

 この店は気温、湿度により、水分量を調節しているという。水を入れて粉を練り上げる、木鉢の作業が重要であることは、手打ちも機械打ちも同じ。機械製麺でも、人間の判断がそばの味を作ることに変わりはない(あの、若者ばかりの店員の中に、匠の技を持つ者がいるのか!?)。

 さらに、そば粉は小麦粉よりも圧倒的な早さで、空気や気温の影響を受けて傷む。水を加えると、それが加速度的に進む。麺体の劣化を最小限にとどめて茹で上げられる、このそば作りの合理性…。

 紫がかったような薄いグレイの色味もどことなく、「新世紀エヴァンゲリオン」の綾波レイを思わせる。

 これはおそらく、灰色の外層粉に甘皮の黄緑とオレンジが混じり、中層粉の限りなく白に近いグリーンと、でんぷん質の透明感が作り出した色なのだろう。
 色も、姿も、端整なそばである。

コメント4件コメント/レビュー

前回に引き続き、あるぢゃと申します。押出し「そば製麺機」なるものをまるで知らず、田町駅前立ちそば屋で衝撃を受けた私ですが、ちょこっと調べてみたら、あれあれ、業界では割とポピュラーな装置だったのですね。ネットのちら見だけでも、5社。ただ、よくあるのは、横からニュッとそばが出てくる(そう、丁度、挽肉を作る、お肉屋さんのカウンターの奥にあるような)奴でした。なるほど、そば業者さんが、たくさんのそば麺を作りたいときには、この方法が良かろうかと思います。(これは回転式とかスクリュー式とか言うようです)それに対し、むぎゅっと押し出すのは、プレス式というものらしい。田町駅前にあった(もうない)のそば屋にあったのは、このタイプ。私がフードショーで見たのもこのタイプ。一人分のそば玉?を機械に入れて、ぷしゅー。と出てきた麺がそのまま煮えたぎったお湯へと落ちていく。大量生産とはちょっと違う、でも安心確実な効率。これはやっぱり見た者にしかわからない興奮があります。「本当にこんなのでうまいそばが作れるの?」「これ、もっと大きなそば玉だったら、どのくらい長いそばができるのだろう?」つまらない疑問・・・。さて、自動そば機に対して、「揚げたて天ぷら」。これは素材もさることながら、やっぱり腕かと。サックリかペットリかはあまりにも違いすぎる食感です。おいしい天ぷらを食せる立ちそば屋の特集もお願いします。また、なんといってもワサビです。画竜点睛を欠くとはよく言った?もので、うまいそばにはうまいワサビ。これは絶対条件です。その辺、全然わかっていないそば屋さんが多すぎます。是非、脱酸素気密容器の新鮮ワサビ供給機の開発も・・・。(2013/06/05)

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「280円のせいろと、あじねぎ天の幸せ」の著者

イトウエルマ

イトウエルマ(いとう・えるま)

イラストライター

北海道室蘭市生まれ。桑沢デザイン研究所グラフィック研究科卒。文具メーカーで企画・デザインに携わり、その後フリーに。イラストルポなどを中心にお仕事しております。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

前回に引き続き、あるぢゃと申します。押出し「そば製麺機」なるものをまるで知らず、田町駅前立ちそば屋で衝撃を受けた私ですが、ちょこっと調べてみたら、あれあれ、業界では割とポピュラーな装置だったのですね。ネットのちら見だけでも、5社。ただ、よくあるのは、横からニュッとそばが出てくる(そう、丁度、挽肉を作る、お肉屋さんのカウンターの奥にあるような)奴でした。なるほど、そば業者さんが、たくさんのそば麺を作りたいときには、この方法が良かろうかと思います。(これは回転式とかスクリュー式とか言うようです)それに対し、むぎゅっと押し出すのは、プレス式というものらしい。田町駅前にあった(もうない)のそば屋にあったのは、このタイプ。私がフードショーで見たのもこのタイプ。一人分のそば玉?を機械に入れて、ぷしゅー。と出てきた麺がそのまま煮えたぎったお湯へと落ちていく。大量生産とはちょっと違う、でも安心確実な効率。これはやっぱり見た者にしかわからない興奮があります。「本当にこんなのでうまいそばが作れるの?」「これ、もっと大きなそば玉だったら、どのくらい長いそばができるのだろう?」つまらない疑問・・・。さて、自動そば機に対して、「揚げたて天ぷら」。これは素材もさることながら、やっぱり腕かと。サックリかペットリかはあまりにも違いすぎる食感です。おいしい天ぷらを食せる立ちそば屋の特集もお願いします。また、なんといってもワサビです。画竜点睛を欠くとはよく言った?もので、うまいそばにはうまいワサビ。これは絶対条件です。その辺、全然わかっていないそば屋さんが多すぎます。是非、脱酸素気密容器の新鮮ワサビ供給機の開発も・・・。(2013/06/05)

おもしろいです。良い意味で肩の力が抜けました。来週も楽しみです。(2013/06/05)

昼のお弁当を食べながら読んでいたのですが,食い終わったそばからハラが減りました。いつもはそんなに意識して食べていませんでしたが,こうやって実況(?)されると実にうまそうですね。私はもっぱら<たぬきそば>ばかり食べていますが,今度<もりそば>を頼んでみようかな。イラストも可愛らしくて面白かったです。・・・しかし,おそばの表現にまさかの綾波とはw(2013/06/05)

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