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アベノミクス成長戦略に深刻な路線対立

安倍首相が目指す資本主義の形とは

2013年6月21日(金)

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 「日本の経済政策がこれほど注目されたことはなかった」。英・北アイルランドで開かれたG8サミット(主要国首脳会議)を終えた安倍晋三首相は誇らしげに語った。共同宣言で「日本の成長は大胆な金融政策や民間投資を喚起する戦略などによって支えられる」と明記され、安倍首相が進める経済政策、いわゆるアベノミクスに各国の“お墨付き”を得たからだ。日本がデフレから脱却し、成長することが世界経済にもプラスになるということが主要国間で改めて確認されたわけだ。安倍首相は「日本が再び世界の中心に戻ってきたことを示せた」とまで述べていた。

安倍政権はどんな資本主義を目指すのか

 実はG8で安倍首相がアベノミクスの説明をするに当たって、水面下で深刻な路線対立があった。それは、アベノミクスが「どんな資本主義を目指すのか」という基本的な方向性についてである。

 アベノミクスの3本目の矢である「成長戦略」の取りまとめが行われていた5月下旬。取りまとめの責任者である甘利明・経済再生相はこんな指示を出していた。

 「政府では市場原理主義ではなく『瑞穂の国の資本主義』を総理がサミットでスピーチする予定です。株主万能でない多様なステークホルダーの利益に資する資本主義です。マネーゲームの短期の投資でなくイノベーションを喚起する中長期の投資を呼び込む為に、株主資本主義からステークホルダー資本主義にする提案です」

 つまり、日本は市場機能に委ねる自由主義型資本主義ではなく、多用な利害関係者の利益を守る日本型の資本主義を目指す、としていたのだ。結論は、多用な関係者の利害調整を国が担うということになる。いわば国家資本主義的な発想である。

 甘利氏のこうした考え方を支えていたのは経済産業省の官僚たちだった。アベノミクスが掲げる「民間投資を喚起させる成長戦略」を実現させるためには、積極的に国が関与すべきだという発想である。成長戦略策定の過程で浮上した「ターゲティング・ポリシー」という発想は、国が成長を担う重点産業を決めて、そこに予算を集中投下するというもので、戦後の「傾斜生産方式」を彷彿とさせる。資本や原材料が圧倒的に不足していた時代に鉄鋼や電力、石油化学といった当時の基幹産業に重点投資した産業政策である。城山三郎の小説『官僚たちの夏』に美談として描かれるが、そんな官僚主導の経済体制を信奉する役人がいまだに経産省の中には少なからずいるのである。

 彼らは当然のことながら、市場機能を敵視する。自由な競争を許せば、日本人の貴重な財産が外国人に乗っ取られる、というのがお決まりの批判パターン。「瑞穂の国の資本主義」を成長戦略の主軸に据えようという動きが強まった5月中旬に、米投資ファンドと西武鉄道の経営陣が経営権を巡って激しく対立していたことと無縁ではないだろう。

 実は、「瑞穂の国の資本主義」という言葉は、安倍首相が言い出したものだ。今年1月20日に出版された安倍首相の著書『新しい国へ』(文春新書)に登場する。第1次安倍内閣当時の1996年に安倍氏が出した『美しい国へ』に「増補」として「新しい国へ」という章が加えられている。そこに「瑞穂の国の資本主義」という言葉が登場する。

 「私は瑞穂の国には、瑞穂の国にふさわしい資本主義があるのだろうと思っています。自由な競争と開かれた経済を重視しつつ、しかし、ウォール街から世間を席巻した、強欲を原動力とするような資本主義ではなく、道義を重んじ、真の豊かさを知る、瑞穂の国には瑞穂の国にふさわしい市場主義の形があります」

 そして、美しい棚田を例に引き、「労働生産性も低く、経済合理性からすればナンセンスかもしれません。しかし、その田園風景があってこそ、麗しい日本ではないかと思います」と述べているのだ。

 これを甘利氏や経産官僚たちは「市場主義」に対置するものにしようと狙っていたわけだ。

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「アベノミクス成長戦略に深刻な路線対立」の著者

磯山 友幸

磯山 友幸(いそやま・ともゆき)

経済ジャーナリスト

ジャーナリスト。1962年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞で証券部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め2011年3月末に独立。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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