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サラリーマンに農業は無理なのか

「自然を相手にする仕事」という大きな壁

2013年9月13日(金)

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 農業再生の切り札として、企業参入が必要だという声がたくさんある。先進的な経営手法を持ち込めば、前近代的で非効率な農業を立て直せるはず、という発想だ。たしかに、日本の農業にとって企業的な経営センスはいまより必要だろう。だがここで立ち止まって考えたほうがいいことがある。そもそもサラリーマンに農業は可能なのだろうか――。

ネギのグループを目指す、こと京都の山田敏之社長

 「あいつに会うと、嫌みばかり言ってる」。農業生産法人、こと京都(京都市)の社長、山田敏之はこう話す。「あいつ」とは、今年独立した元従業員の田中武史を指す。12年間、山田の右腕として働いた生産部門の責任者だ。「嫌み」はもちろん冗談。「あいつ、やめてから断然いいネギつくるようになった。腹立つなあ」とうれしそうに笑う。

 こと京都は、アパレルメーカーをやめて実家を継いだ山田が2002年に立ち上げた。九条ネギを中心に生産から販売、加工まで手がける有力農業法人で、従業員は30人弱いる。九条ネギではライバルがほとんどない規模に成長したが、会社が大きくなるほど、気になってきたことがある。「社員は一生懸命働いてる。それなのに楽しそうじゃない」。

サラリーマンには難しい「農家の働き方」

 理由を考えているうち、気づいた点がある。「農家の働き方は本来、ネギにも人にもいいはずだ。だがそれがサラリーマンには難しい」。例えば夏。朝は4時ごろ起きて仕事を始め、昼前に長めの休憩に入る。再開は午後3時ごろで、終わるのは夜8時。「暑い真昼に作業するのは、ネギにも人にもよくない」。だがこういう働き方を社員に求めるのは難しい。一方で、ふつうの会社員と同じ時間帯で仕事をすると「暑くてつらい」。

 問題は社員のモチベーションにとどまらない。「農家の働き方」ができないから、どうしてもまわりのプロの農家に質で負けることがある。「早くうまくなれよ」と言ってはきたが、技術でカバーできる問題とも思えない。そこで山田が出した結論は「もう、おまえら独立させることにした」。独り立ちしたら、農家と同じように働くという読みだ。

 実際、独立1号の田中は山田の期待通りに成長した。もともと自分で農業をやりたいと思っていたが、こと京都で働くうち、「いろいろ見えてきて、無理だと思うようになっていた」。農業で利益を出す難しさを知ったのだ。いつの間にか年も40代半ばになっていた。だが1年ほど前から「やっぱり挑戦してみたい」という気持ちがわいてきた。

 以前はどちらかと言うと、線の細い印象だった。いまは黒々と日焼けし、髪も長く伸びた。深夜2時過ぎに起きて準備を始め、4時から畑に出ることも珍しくない。「もうだれも助けてくれない。必死度は、こと京都に勤めていたときと比べ、正直言って違います」。見違えるほど精悍(せいかん)になった田中について、社長の山田は「ものをつくるのが好きだったんだ」と目を細める。

 こと京都は日本のネギの最大勢力になることを目指し、経営規模を拡大してきた。九条ネギに代表される青ネギでみれば、いまは日本の消費量の100分の1で、年1000トン弱。山田はこれを関東が主産地の白ネギも含め、4万トンに増やすという目標を掲げている。

 だがこの目標を、1社で実現するのは非現実的。そこで山田が取り組んでいるのが農家のグループ化だ。社員の独立を後押しするのも、その一環。「いいものをつくって、自分の収入を増やしたい」という農家の“本能”が発揮されれば、つらい作業にも向き合える。今年4月からは新たに就農希望者を受け入れ、5年後に独立させる仕組みもつくった。いま7人が独立を夢見て研修中だ。

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「サラリーマンに農業は無理なのか」の著者

吉田 忠則

吉田 忠則(よしだ・ただのり)

日本経済新聞社編集委員

1989年京大卒、同年日本経済新聞社入社。流通、農政、行政改革、保険会社、中国経済などの取材を経て2007年より現職。2003年に「生保予定利率下げ問題」の一連の報道で新聞協会賞受賞。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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