
女性がメークアップで美しくなるためには、何重もの難関を乗り越えなければならない。まず、顔立ち。それが美しければ大抵の問題は解決するだろう。だが、それがダメなら、次は化粧の技がある。メークアップのいかんによって、顔立ちの目立たない女性でも奥行きのある美しさが添えられたり、反対にどんなに美しい人もイヤミに見えたり、時代遅れに見えたりするものだ。
ボビー・ブラウンは、金髪に白い肌、飛び出すような目立った色のメークアップが主流だった時代に、そのままの唇の美しさを活かす自然な色の口紅で世の女性の支持を得た。「こういうスタイルが美しい」という不動の定型があった世界に、それとはまったく別の価値観を、口紅という小さなところから打ち立ててみせたのだ。
ブラウンは、小さい頃から自分の外見に劣等感を抱いていたという。身長は152センチほどと低い。金髪とはほど遠い暗い茶色の髪と浅黒い肌、そして目の色も暗い。第一印象は「小さくて暗い感じ」と言えばいいだろうか。「アメリカン・ビューティー」の典型である、まぶしいような金髪と白い肌には、どんなに頑張っても近づけなかったのだ。
今日何をしてもいいと言われたら何をするか
そんなブラウンは、それでも小さな頃からメークアップに関心があったという。母親が鏡台に向かって白いアイシャドーを塗り、黒いアイライナーを引き、またたく間に美しくなっていくさまに魅せられた。アルバイトができる年齢になると、さっそく応募したのは町の化粧品屋だった。
だが、メークアップが自分の天職だと自覚するまでには時間がかかった。シカゴ生まれのブラウンは、高校を卒業してから半年をウィスコンシン州の大学で、その後、転校して別のアリゾナ州の大学で1年を過ごしたのちに、一体自分が何をしたいのかがわからなくなった。天職を見つけてくれたのは、母親だった。
実家に戻って、「人生で何をすればいいのかわからない」と告げたブラウンに、母はこう言った。「人生なんて大袈裟なことは考えなくていいのよ。今日、何をやりたいかを考えれば? 今日が誕生日で何をしてもいいってことになったら、一体何をしたいの?」。ブラウンは即答した。「それなら、近くの化粧品屋へ行って、メークアップ商品をいろいろ試したい」。そして、母もまたそれにすぐに応えた。「じゃあ、メークアップ・アーティストになればいいのよ」。
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