これまで、顧客の潜在ニーズを深く探る方法や、マス・カスタムの製品開発についての事例を紹介してきました。最終回となる今回は、新製品開発において最も厄介な「既成概念」についてお話します。
私たちはどうしてもこれまでの経験や知識によってつくられた「既成概念」にとらわれがちです。しかし、市場も顧客も、状況は日々変化しています。私は、既成概念が新しい価値を生み出す邪魔をしているケースを多く見てきました。
今当たり前だと思っていることは、本当に当たり前でしょうか? まずは今の既成概念を徹底的に疑ってみてください。
欲しいのは「ドリル」ではなく「穴」だった
既成概念にとらわれて失敗した「ドリルの話」はよく知られていると思います。
ある企業が懇意にしている顧客から「直径10mmの金属ドリルを1万本欲しい」という引き合いの連絡を受けました。そこで担当者は、予算や競合情報などを簡単に聞き出し、従来通りのドリルの歯を1万本用意できる体制を整えました。
ところが、この企業はこの引き合いを受注につなげられなかったのです。なぜでしょうか? 実は、顧客の2つの状況を把握していなかったのです。1つは、これまで金属板に2カ所穴を開けていたのですが、それを10カ所に増やすことになったこと。もう1つは、穴を開ける金属板が、今までより薄くなったことです。
顧客は開ける穴が増えたので、「1万本のドリルが欲しい」と言いましたが、その状況をきちんとヒアリングした競合企業は、ドリルではなくパンチを提案し、見事受注したのです。薄い板ならパンチでも穴が開けられますし、一度に多くの穴が開けられて効率的です。
この場合の既成概念は、「ドリルが欲しいからドリルを準備した」ことです。実際に顧客が求めていたのは「ドリル」ではなく「穴」だったのです。
この企業がもし予算や競合などの「営業情報」だけでなく、顧客が1万本のドリルを何に使うのか、何に困っているのかの「開発情報」を拾えていたら、結果は違っていたかもしれません。世界は、今この瞬間も動いています。しかし、これまでの経験が邪魔をして、今までの方法を当たり前だと思ってしまう、そこが落とし穴です。
ブラインドを下ろして光を入れたい?
私がお手伝いした商品開発で、既成概念を疑うことで成功した事例を紹介します。
「ブラインド」というと、どんなものを想像しますか? 普通は、光を遮るためのもの、あるいは閉めれば光を遮ってしまうもの、を思い浮かべるでしょう。実はこれが既成概念です。
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