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東京の3つの宿が訪日客から絶賛される理由

個人旅行者を「日本リピーター」に変える!

2014年5月8日(木)

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日本人でも新鮮な「RYOKAN」体験を提供

助六の宿 貞千代(東京・浅草)

写真左:小さな客室にも床の間飾り。写真中:純和風の客室。各室にバス・トイレ付き。写真右:外国人にも人気の共同浴場、総檜風呂「桜が湯」。この他に黒御影石造りの石風呂「ご福の井」がある

 「助六の宿 貞千代」は戦後、浅草で開業。創業67年の観光旅館です。言問通りや国際通りなどの大通りから一本内に入った閑静な路地にあり、日本最古の遊園地とされる浅草花やしきは目と鼻の先、浅草寺にも歩いて行ける好立地にあります。

 現在、客の2割は外国人。フランス人やアメリカ人を中心にアジア・北欧など、幅広い国や地域から客を受け入れています。FIT客に支持される理由は、やはり東京で「RYOKAN」という異文化体験ができることにあります。

 白壁に黒格子の、城や蔵を思わせる和の建築に目隠しの柳。玄関先に人力車や提灯、灯篭などを置き、風情ある和の佇まいを醸し出しています。館内や客室には江戸版画や和箪笥、骨董などを効果的に用い、江戸情緒漂う独特の世界観が外国人だけでなく日本人にも人気です。ここでは鬼平犯科帳に出てきた「江戸町衆料理」や、浅草芸者踊りや投扇興などの「江戸前の遊び」を体験することもできます。

 しかし、貞千代も創業当初からこうしたスタイルだったわけではありません。

 浅草の旅館は1960代には修学旅行で賑わいましたが、1970年代になると修学旅行が激減。宿の衰退とともに浅草のまちも一時廃れたといいます。貞千代も例外ではありませんでした。

 何か特色を出していかなくては生き残れないと考え出したのが「江戸浅草風」の作りでした。単に安い宿とは違う、和の体験ができる雰囲気ある宿を創ろうと施設を全面改修。ただし、外国人の受け入れを意識してのものではなかったといいます。

 訪日客を受け入れるきっかけとなったのは2002年の日韓共催サッカーワールドカップ。ホテルなど主要な宿泊施設が予約で埋まり、空いている宿を探して旅館に流れてきた客たちでした。

 最初に貞千代の存在を広めたのは、フランス人のブログからの口コミだったといいます。その後、海外メディアや旅行ガイドで紹介されたことで、その存在は広く知られるところとなりました。最近ではトリップアドバイザーなどの口コミサイトが大きな影響力を持っていますが、投稿するのは旅慣れたFIT客が中心です。そこで良い評価を得られれば、その口コミ情報を見て次の客がやってきます。

 その後、外国人客の数は徐々に増え、震災前には宿泊客の3割が外国人になっていました。現在、外国人の割合は2割ほどで、震災前の数字には戻っていませんが、これは震災の影響というより、訪日観光ニーズの変化によると貞千代では分析しています。

 近年、FIT客の観光ニーズには「脱メジャー」の傾向が出ています。訪日観光情報のポータルサイト「ジャパンガイド」でも、メジャーでない地域へのアクセス数は増加傾向にあると言います。貞千代を利用する旅慣れた客は、飛騨高山や白川郷など、地方まで足を伸ばすことも多く、そこで温泉や古民家体験を含めた、さらにディープな体験を志向する人も増えているのかもしれません。

 では、外国人客は貞千代の何に心惹かれ、どんなことに満足したのでしょうか。たとえば、日本では当たり前のように思っている、宿の玄関にあるその日の宿泊者の名前を書いた看板。外国人ゲストはまずここに自分の名前があることで非常に感激するそうです。特別な扱いを受けていると受け取るようで、記念写真を撮る人も多いそうです。

 貞千代では宿泊の記念に江戸木札にゲストの名入れをしてプレゼントしていますが、これも外国人にはとても好評だと言います。各部屋にはお風呂が付いていますが、檜や黒御影石を使った2つの共同浴場に入る体験は特別のようです。

 外国人の受け入れでトラブルに見舞われることもないわけではありません。脱いだ靴を床の間に置く人もいれば、風呂を出て体を拭かず、浴衣をガウン代わりにしてびしょびしょにしてしまい、廊下に水滴を垂らしながら歩く人もいると言います。「一応、英語で案内もしているんですけどね。見ない人も多くて」と帳場の砂賀誠さんは怒るでもなく、大らかに笑います。実はこの「大らかさ」こそ、貞千代の最大の強みなのかもしれません。トリップアドバイザーのコメントを見ても、評価されているのはそのサービス、日本旅館ならではの「おもてなし」のようです。

 オーストラリアで学校の先生をしているお客様は「こんなホスピタリティーに溢れた宿に今まで泊まったことがない。帰国したら生徒たちにどういうもてなしを受けたか教える」と言って帰って行かれたとか。

 外国語対応については、早くから英語のホームページを開設、館内に必要な案内を英語で表示するなどしましたが、スタッフがみな英語が堪能というわけではありません。食事は和食のみで、中には合わない人もいるそうですが、だからといって特別な対応もしていないとのこと。それでもこうして多くの外国人を受け入れ、高い評価を得ています。

 貞千代を訪れる外国人客の旅のスタイルは、東京に3泊ほどして、都内と周辺の日光や箱根などを観光し、貞千代には最初の日か、最後の日に宿泊することが多いそうです。

写真左:共同浴場内の英語の注意書き。写真中:宿泊記念の名入れ江戸木札は客に喜ばれている。写真右:日本ではおなじみの宿泊者名の書かれた看板には外国人客の名前も。これを見て記念写真を撮って喜ぶ人が多いという

 その宿ならではの旅行スタイルは、立地に大きく左右されます。貞千代の強みは、宿の特色に加え、年間400万人の外国人観光客が訪れる浅草にあることです。

 外国人は東京から日帰りできる箱根や日光は、東京観光という一つの枠で捉えています。これは私たち日本人が、ベルサイユをパリと一括りで考えるのと同じ発想です。フランスでは、パリから200km圏内にある、北西部のノルマンディーと南西部のミディ・ピレネーをパリからの日帰り観光地としてプロモーションしています。

 現在の訪日観光戦略は、一つの有名観光地という「点」で語られることがほとんどで、ターゲットとなる訪日客の「旅行スタイル」という視点や、その行動範囲を「エリア」として捉える視点が欠落しています。そうした観点から、次に紹介するホテル「CLASKA」は、その良い事例と言えるかもしれません。

コメント6件コメント/レビュー

どうも日本の企業はこういう場面では「高級感溢れるおもてなし」一辺倒になる悪い癖がある。実際の旅行者はそういう物を求める人だけではなく、屋根だけありゃいい単独旅行者も来る。重要なのは上から下までのラインナップを揃えることだ。国内の旅行業者や(特に)地方自治体に一言言っておきたいのは、今はあまり金を落とさない若いバックパッカーやキャンパーをちゃんと受け入れる事。彼らが成長して次に来てくれる時には家族や子供を連れてきてくれる事を忘れてはいけない。若い彼らを切り捨てると次はありませんよ。(2014/05/10)

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「東京の3つの宿が訪日客から絶賛される理由」の著者

水津 陽子

水津 陽子(すいづ・ようこ)

合同会社フォーティR&C代表

経営コンサルタント。合同会社フォーティR&C代表。地域資源を活かした観光や地域ブランドづくり、地域活性化・まちづくりに関する講演、コンサルティング、調査研究、執筆等を行っている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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どうも日本の企業はこういう場面では「高級感溢れるおもてなし」一辺倒になる悪い癖がある。実際の旅行者はそういう物を求める人だけではなく、屋根だけありゃいい単独旅行者も来る。重要なのは上から下までのラインナップを揃えることだ。国内の旅行業者や(特に)地方自治体に一言言っておきたいのは、今はあまり金を落とさない若いバックパッカーやキャンパーをちゃんと受け入れる事。彼らが成長して次に来てくれる時には家族や子供を連れてきてくれる事を忘れてはいけない。若い彼らを切り捨てると次はありませんよ。(2014/05/10)

日本のメディアは「外国人観光客」といえば欧米人など非アジア系のひととばかり想像しますが。実際、中国、台湾、韓国、香港などからの観光客もおおいようです。そういうアジア系客に向ける意匠を工夫するような宿もあってもいいですよね。(2014/05/09)

FITとは、"Free and independent traveller"の略語では?{米国ハワイ州観光局のFITの定義はこれ。別に"foreigner"であることが要件ではない。日本人で且つ海外居住者が日本に一時帰国する際には、一般的に有料宿泊施設を 必要とすると考えます。}「インバウンド」客は、「訪日宿泊客」と言い直した方が良さそう。インバウンドの対語はアウトバウンドでしょうか?おかしいですよね。「訪日宿泊客」対「国内旅行宿泊客」と言う形で対置した方が良さそう。要するに日本語のメリハリに気を使って欲しい。(2014/05/08)

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