
世界のラグジュアリー・ブランドに変化が起きている。イタリアの高級ブランド「グッチ」は門外不出だった熟練職人の伝統技術を公開し、顧客の目の前で製造過程を披露するイベントを開催。フランスの「エルメス」も、選ばれた者しか観ることができなかった最新コレクションの模様を、リアルタイムにスマートフォンで配信し始めた。
そこに共通するのは、「オープン」というキーワードだ。かつてラグジュアリー・ブランドには、独自の価値と世界観を、そのブランドを手にした者だけに提供することが是とされ、「エクスクルーシブであること」が何よりも求められた。敷居を高くし、手にした者だけが分かるという気分を演出することに価値があった。
商品そのものを通じたアプローチに加えて、従来ブランド力を維持する上で最大のツールだったのがマスメディアだ。ブランドのイメージ戦略の大部分を負っていたのはテレビ、新聞、雑誌であり、メディアでの露出をコントロールすることがブランドの敷居の高さの調整につながっている。
この構造は今でも変わっていない。しかしその一方で、インターネットの広がりは、従来のブランド戦略に変化を与えている。ソーシャルメディアの普及によってブランドの接点が飛躍的に増したため、従来のマス広告のようにブランドイメージを提供者側がコントロールできなくなりつつある。
それはラグジュアリーの新しい「オープン・ブランディング」の時代が到来したとも言える。しかし難しいのは、オープン化は単なるカジュアル化と同義ではないということだ。敷居を下げながらも、高級感やエクスクルーシブ感は損なわない。さらけだしながらも、ブランドの本質を訴求し続けることが求められる時代になったと言える。
既存の顧客が価値を見出す世界を維持しながら、いかに時代に則したブランドイメージ戦略を構築するか。自動車、ファッション、ホテル、時計…。名だたるラグジュアリー・ブランドが、二律背反の課題を抱えながら戦略転換を進めている。
本連載では、そんなブランドのオープン化を模索する企業の動きを追っていく。第1回は、高級自動車メーカーのアウディ ジャパン。高級自動車メーカーが競うようにオープンしたカフェスペースの先駆けとなった。同社の大喜多社長に聞いた。
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