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国籍・言語を超えて「アート」は人を呼ぶ

地域の持つ魅力と融合、継続的展開がカギ

2014年6月5日(木)

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町全体を開かれた美術館に

青森県十和田市

「Arts Towada」の中核施設、十和田市現代美術館の前庭には美術館のシンボル的存在のフラワーホース。奥の壁面には人気作家、奈良美智さんの「夜露死苦ガール2012」が描かれている

 現代アートが近代以前のアートと決定的に異なるのは、作品がただ「観覧」するだけの対象ではなく、触れたり体験したりできる作品や展示手法となっている、あるいは施設や展示スペースそのものをアートにしたり、展示空間と作品を一体化したインスタレーションなどの手法を用いている点です。バブル崩壊後の観光市場は、団体パッケージツアーは下火となり、観光ニーズも「物見遊山型」から「能動体験型」にシフトしましたが、現代アートの成功はこの変化にまさにジャストフィットしたと言えます。

 さて、青森県十和田市が中心市街地にある約1.1kmの官庁街通りを一つの美術館と見立てたアートな町作り「Arts TOWADA(アーツトワダ)の検討を開始したのは2001年。市長が海外視察でパリなどのヨーロッパの町を訪れた際、通りや町全体がアートのような風景を目にし、十和田でもこんな町作りができないかと「野外芸術文化ゾーン構想」の検討を指示したところから始まります。

 官庁街通りはその昔、軍馬補充部の正門道路があった歴史ある通りで1986年「日本の道百選」にも選ばれましたが、省庁再編など機関の統廃合が進み、空き地が目立つようになっていました。市では景観保全や地域活性化の視点から対策が求められており、庁内で検討を開始しました。

 検討の結果、2002年に4社指名のプロポーザルを実施。森美術館の副館長を務める南條史生氏が設立したナンジョウアンドアソシエイツに事業者を決定しました。2008年4月、拠点施設となる十和田市現代美術館が開館。2010年には通りの向かいに「アート広場」を整備、官庁街通りに「ストリートファニチャー」を設置しました。

 美術館は開館当初から多くの雑誌に取り上げられ、初年度の入館者数は当初予想を大きく上回る17万人。2009年度には十和田市の観光入込客数を30万人増の391万人に押し上げました。2011年度は東日本震災の影響もあり14万人に落ちたものの、開館前の想定4万5千人を大きく上回り、2013年度までの累計で93万人が訪れています。

 さらに、本来入館料を払わなければ見ることができない美術館内部の展示作品の一部が美術館の外からも見える仕掛けになっています。内からは官庁街通りやそこを行き交う人の姿、空気や天候の移り変わりなどが作品の一部に取り込まれて見えます。現代アートならではの借景、作品を通じて内と外の世界が繋がる展示方法です。

 前庭には美術館のシンボルとなる作品「フラワーホース」。美術館の壁には人気作家の奈良美智さんが描いた壁画。向かいの「アート広場」には草間彌生さんの代名詞である水玉の作品があります。美術館周辺では作品や美術館を写真に収める人の姿が絶えません。「アート広場」では小さな子供を遊ばせる若いお母さんの姿もよく見られます。ここは近くの幼稚園や保育園の散歩コースにもなっているそうです。

 以前の十和田観光は中高年客が中心でしたが、美術館ができてからは市街地を散策する若い女性をよく見かけるようになり、町が華やかになったといいます。

 外国人に関しては美術館での集計をしていないため正確な数字は出せないとのことですが、最近、台湾や香港からの観光客が増えているといいます。十和田・奥入瀬は外国人に人気が高く、そこを訪れた観光客が立ち寄ることも多いようです。

 前段の観光庁の調査では、意外にも博物館・美術館に関しては、欧米よりアジアの観光客の方が期待や満足度が高くなっています。中でも中国は訪日前の期待49.5%、満足48.6%と共に最も高い数字を示しています。十和田市現代美術館にはアジアなど海外のアーティストの作品も多く、そうした点も親しみを持たれているようです。

 当初は計画に反対の意見もあったといいますが、今では多くの人が訪れる地域の自慢、市民に愛される憩いの場にもなっています。

写真左:アート広場にある水玉のかぼちゃなどの草間彌生さんの作品。写真中:美術館の中の展示が外からも見える仕掛け。美術館内から見ると、通りを行き交う人の姿も作品の一部として捉えることができる。写真右:美術館内にあるカフェ&ギャラリーショップもアーティスティックで人気が高い

 現代アートの人気をけん引しているのは20~30代の若い女性です。その層を取り込む仕掛けは美術館のアートショップやカフェなど、随所に見られます。美術館は常設作品に変更がなく、中心市街地商店街への人の流れなどに課題は残りますが、今後はリピーター獲得に向けて企画展や、十和田市全体を展示会場に見立てた「十和田奥入瀬芸術祭」(2013年度から)の充実を図りたいとのことです。

 東北では未だ観光の客足が震災前の8割程度にしか回復していないのが現状ですが、青森は2013年には87%まで回復。奥入瀬渓流の評価は以前として高く、今後はアートに関してもより積極的なプロモーションを行っていきたいとしています。

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「国籍・言語を超えて「アート」は人を呼ぶ」の著者

水津 陽子

水津 陽子(すいづ・ようこ)

合同会社フォーティR&C代表

経営コンサルタント。合同会社フォーティR&C代表。地域資源を活かした観光や地域ブランドづくり、地域活性化・まちづくりに関する講演、コンサルティング、調査研究、執筆等を行っている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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高坂 晶子 日本総合研究所調査部主任研究員