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「切ないけどやるよ」

村の祈りと農政の罪

2014年9月19日(金)

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 「なんてことを言うんだ!」。自民党の農林族議員から、激しい調子で怒鳴られたことがある。「山の中の田んぼをこのまま守るのは無理ではないか」と質問したときのことだ。山の田んぼをすべてつぶした方がいいと言ったつもりはない。だが、相手のあまりの激高に、議論を先に進めることができなくなった。

 様々な人の仕事と暮らしにかかわる農業問題で、一方的に相手にレッテルをはる「抵抗勢力」という嫌らしい言葉を安易には使いたくない。だが、「活性化」の旗をふり、地域の努力か、補助金を使えば現状を維持できるという幻想をふりまいてきたのは農政の罪だ。

冬は2人、夏は13人、70~80代が中心の市野々

 農業の現場が直面している危機は、これまでのやり方では到底解決できないほど深刻だ。そんなことを考えながら、新潟県のJR糸魚川駅から南に車で30分ほど、山あいの曲がりくねった道をたどって市野々の集落を訪ねた。

 市野々は、近くが今村昌平監督の映画「楢山節考」のロケ地にもなった豪雪地帯だ。ときに積雪は5メートルに達する。いま通年でこの集落に暮らしているのは、73歳の斉藤義昭とその妻のセイ子だけだ。以前はほかにもう1人いたが、その人が2年前に亡くなり、ここで冬を越すのは斉藤夫婦の2人だけになった。

市野々集落のある西海地区は映画「楢山節考」のロケ地になった

 老夫婦だけでは心配だから、冬は山を下りて、雪の浅い平地に住んだほうがいいという声もある。だが斉藤は言う。「よそで寝るより、うちで寝たい。下で飲み会があって、タクシー代が6000円かかっても、ここに戻ってくる。ずっと住んどるところだからね」。

 斉藤の家は代々農家で、住まいは築300年近く、黒光りをしたケヤキの柱が歴史の重みを映して美しい。この家で、冬をどう過ごしているのだろう。そう聞くと「夫婦ゲンカも毎日しとらせんし、除雪とか。のんびり」。それに冬のあいだ、ずっと2人きりなわけではない。「今日は野崎さんが来とるなあ。違う日はだれだれか来とるなあ。そういうのが楽しみ」という。

 冬は斉藤夫婦だけだが、春になると約10戸が市野々に上ってきて、畑仕事をしたり、集落の行事に参加したりする。雪が降り始めるとまた平地に戻るが、家を守るため、雪下ろしをしにときどき市野々を訪れる。野崎修作もその1人だ。

 日本の農家の平均年齢は66歳。これを指して農業の危機というのはあまりにも聞き慣れた言い方だ。だが、市野々の高齢化は度を超してすさまじい。夏をここで過ごす13人のうち、最も若いのがJRを退職して実家で農業を始めた64歳。60代はほかに3人。残りは70~80代。野崎は最高齢の84歳だ。

市野々の農地を守ろうとする人々(左から渡辺敏哉さん,斉藤義昭さん、野崎修作さん、妻のチエノさん、野崎さんの家で)

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「「切ないけどやるよ」」の著者

吉田 忠則

吉田 忠則(よしだ・ただのり)

日本経済新聞社編集委員

1989年京大卒、同年日本経済新聞社入社。流通、農政、行政改革、保険会社、中国経済などの取材を経て2007年より現職。2003年に「生保予定利率下げ問題」の一連の報道で新聞協会賞受賞。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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