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兼業悪玉論を疑ってみる

最強のシステムはなぜ滅びようとしているのか

2014年9月26日(金)

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 農業の危機的状況を打開する糸口をさぐるには、まずどんな経営に未来をたくすべきなのかをはっきりさせることが必要だ。専業農家は兼業より効率的で、大規模農家は零細農家より強く、企業的な経営は家族経営よりも優れている――。本当にそうなのだろうか。

 筆者を含め、多くの一般メディアがステレオタイプに報じてきた農業観を疑い始めたのは、一年ほど前、大手コメ卸の幹部からつぎのように言われたことがきっかけだった。「兼業農家は赤字でも売ってくれるんだから、こんなありがたいことはないですよ」。

複雑系、暗黙知、機動性には家族が合理的

 コメをできるだけ安く仕入れたい卸からすれば、当然の理屈だろう。ちなみに、日本のコメ農家はほとんど兼業で、我々が日々食べるコメは彼らがつくったものだ。つまり、兼業がつくったから特段まずいコメになるわけではない。卸の幹部が言った「赤字」は注釈が必要だが、そのことは後述しよう。

 兼業というと問答無用に否定しがちだが、いったいなにが問題なのだろう。そんなことを考えながら、ふと思い出したのが、有名な石川県のコメ農家、仏田利弘に5年前に初めて会ったときに彼が言った言葉だ。「最近は家族経営のほうがいいと思ってるんですよ」。

家族経営の意義を説く仏田利弘氏(石川県野々市市)

 ふり返るととても重い意味を持つこの言葉を、このときは完全にスルーした。仏田は稲作から出発し、1980年には農産物の加工と販売、いまで言う6次産業化を始め、88年には経営を有限会社にした。まさに先進農家の代表的存在で、農政審議会の専門委員をつとめるなど、農政にも積極的に発言してきた。規制緩和を受け、組織を株式会社に衣替えしたのも、彼が初めてと言われている。

 一方、こちらは家業よりも企業経営のほうが優れていると思い込んでいるから、「家族経営のほうがいい」という言葉にうっすら驚きを覚えながらも聞き流した。代わりに農政への批判など、先進農家としての仏田のセリフばかり引き出そうとしてきた。

 農政に対する仏田の理解と説明能力は抜きんでており、それはそれで意味のあるインタビューだったとは思う。だが、目の前にせまった農業の危機の根深さを思うにつけ、改めてあのときの彼の言葉の真意を聞いてみたくなった。

 「農業のノウハウは複雑系で、暗黙知が多い。天候に応じて日々刻々と判断を変えるような機動性が求められる」。いつもの理路整然とした語り口で話し始めると、「それを伝えるには家族のほうが合理的なんです」と続けた。

稲刈りに消費者を呼んで交流する(石川県野々市市)

 仏田は農業の暗黙知を分析し、次代に伝えるための農政のプロジェクトに参加したこともあり、「おやじの背中を見て覚える」という昔ながらのやり方を無批判に肯定しているわけではない。

 だから「いままで十分にやってこなかっただけで、マニュアル化できるのかもしれない」とも指摘する。それでも、「一緒に住み、コミュニケーションが密で、共体験をもつ家族のほうが伝えやすい」というのが現時点での結論なのだ。

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「兼業悪玉論を疑ってみる」の著者

吉田 忠則

吉田 忠則(よしだ・ただのり)

日本経済新聞社編集委員

1989年京大卒、同年日本経済新聞社入社。流通、農政、行政改革、保険会社、中国経済などの取材を経て2007年より現職。2003年に「生保予定利率下げ問題」の一連の報道で新聞協会賞受賞。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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澤田 秀雄 エイチ・アイ・エス会長兼社長、ハウステンボス社長