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香港返還の日、雨傘は役に立たなかった

香港人と中国人のミゾを埋めるには

2014年10月16日(木)

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 香港で2017年に実施される行政長官選挙について、中国が決めた普通選挙の方法に反対する香港人の民主派や学生たちによる金融街のセントラルやアドミラルティの占拠が、長期化する兆しを見せている。香港の警察当局がデモの排除に撃ち込んだ催涙弾を避けるために学生らが傘を使ったことから、今回のデモは「雨傘革命」と呼ばれているという報道を見て、17年前の香港返還当日の記憶が蘇った。「あの日、雨傘は役に立たなかったな」と。

イギリスの涙雨

 当時、私は香港のタブロイド判の日本語新聞社で働いていた。3万人と言われた在住日本人相手の新聞だから部数は知れたものだ。それでも、1997年の6月30日深夜から7月1日未明にかけて香港島のコンベンションセンターで執り行われた返還式典と、行政長官をはじめとする香港特別行政区政府の官僚たちが、中国政府要人の前で宣誓する式典の取材が、私の在籍していた新聞社にも割り当てられた。

 1990年代の香港は、特に夏場は午後から夕方にかけて15分から30分ほどスコールが降るものの、その後は再び晴天になるという気候だった。スコールは毎日のようにあったが、軒先でしばらく雨宿りをしていればそのうちに止むのが分かっていたので、傘を持ち歩くことはほとんどなかった。

 ところが返還当日の6月30日は、文字通りバケツをひっくり返したような土砂降りが一日に何度も香港を襲った。いつも通りだろうと高をくくって傘を持たずに町の取材に出た私は、下着までぐっしょりになるほどずぶ濡れになり、仕方なく自宅まで着替えにわざわざ戻ったほどだった。翌日の香港各紙は、親中派の新聞を除いて、この日の雨を「イギリスの涙雨」と形容した。

主役なのに脇役にしかなれない命運

 さて、社内の抽選で7月1日午前1時半から始まる宣誓式典を取材する権利を引き当てた私は、一番のハイライトである6月30日午後11時半からの返還式典を、コンベンションセンターの別の会場にある大きなモニターで見ていた。壇上のポールに翻っていたイギリス国旗のユニオンジャックが降ろされ、7月1日に日付が変わると同時に今度は中国の五星紅旗が揚がると、セレモニーで使われる言語が、それまでの英語、普通話(中国の共通語)の順から、普通話、英語の順に変わった。続いて行われた初代の行政長官ら香港政府の高官らが職責を果たすことを宣誓する式典では香港の言語である広東語も加わったが、一番後回しにされた。

 この言語の順番に、今回のデモにもつながる香港人の気持ちが端的に表れている。自分たちの土地のことでありながら、返還前はイギリスが、返還後は中国が主導で自分たちの命運を決める。どちらに転んでも主役になれないというジレンマだ。

 「それならば、植民地時代の盟主だったイギリスに対しても、中国に対するのと同様、反抗しなければならなかったのではないか」という意見もあろう。ただ、戦後や1960年代に、中国の混乱から逃れてきた人たちで香港という土地が形成されていることを考えると、イギリスと中国に対する態度や考え方が異なるのは致し方のないところである。

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「香港返還の日、雨傘は役に立たなかった」の著者

山田 泰司

山田 泰司(やまだ・やすじ)

著述業/EMSOne編集長

1992~2000年香港で邦字紙記者。2001年の上海在住後は、中国国営雑誌「美化生活」編集記者、月刊誌「CHAI」編集長などを経てフリーに。2010年からは、「EMSOne」編集長も務める。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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