米中間選挙で野党の共和党が大勝した。翌日、筆者のもとにワシントンから2通の電子メールが届いた。1通目の差出人は「バラク・オバマ大統領」だった。嘘ではない。件名は「次に来るもの(Here is what’s next)」とあった。
印刷するとA4の紙で1ページ。ホワイトハウスのロゴの入った書簡である。
ただ筆者がオバマ氏と知己であるわけではない。ワシントンにいた時にホワイトハウスもカバーし、広報にメールアドレスを登録していたのでいまだに一斉メールが届くのだ。
中間選挙で当選した議員諸氏に対する讃辞と共に、今後の抱負が述べられていた。「今後2年間はシャツの袖をまくって米国民のために尽力したい。連邦議会とはいくつかの問題で意見が合わないが、物事を進めていくために力を合わせていく」。
実際に書いたのはオバマ氏ではなくスピーチライターだろうが、メールを送付する前に大統領が直接目を通しているはずだ。建前論ではあるが、共和党と手を取り合っていく意気込みは読み取れた。
「共和党が連邦議会の多数派を制してくれてよかった」
もう1通のメールは民主党内にいる知人からだった。「本当のことを言うと、共和党が連邦議会の多数派を制してくれてよかったと思っているのです」
こういう書き出しで始まるメールは、筆者が中間選挙後の日米関係と環太平洋経済連携協定(TPP)の行方を知人に尋ねた返事だった。
冒頭の一文を読んだあと、共和党に上下両院で過半数を奪われたことが「よかった」とは一体どういうことなのかと考えた。米国の論者の中には、ホワイトハウスと議会の対立が深まって政治が機能不全に陥り、オバマ政権のレームダック(死に体)化が進むと述べる人もいる。
メールを読み進めると、共和党が議会の多数派になったことで円滑に進む事案があるという。それは民主党内の人間でさえ認めていることらしい。
事案とは通商、つまりTPPのことである。
「共和党が議会の過半数をとれば、貿易促進権限(ファストトラック権限=TPA)を大統領に与えて、TPPは近々にまとまると思っている」
ファストトラック権限は他国との通商交渉において、政府間で合意した内容について、議会にイエスかノーかの判断だけを求めるものである。知人はTPPの肯定的な将来を占ってみせた。
中間選挙の前まで、民主党内にいるTPPの強硬な反対派が力をもち、関連法案は前に進んでいなかった。反対派の筆頭にいるのがハリー・リード民主党上院院内総務だ。日本製の自動車をはじめ、米市場の雇用を脅かす輸入品に対する警戒心が強い。もちろん米労働組合の存在が背景にある。関税が撤廃されると輸入品価格が下がり、米国製品の売り上げが落ちて雇用が奪われるとの論理だ。TPPを推進する立場にあるオバマ大統領が、同じ政党の長老議員から反対に遭っていたのだ。
中間選挙が終わっても、民主党議員がすぐに議会を離れるわけではない。「選手交代」が行われるのは来年だ。ただ1月になり、上院に17ある委員会の委員長が共和党議員に代われば、TPAをオバマ大統領に与えることになるだろう。TPP交渉は本来、昨年末までに決着するはずだっただけに、長かった冬がようやく明けるように思える。
ピーターソン国際経済研究所のジェフリー・スコット上級研究員も、共和党議会が通商を円滑にすると予測する。「大多数の共和党議員はTPPに賛成です。TPP関連法案を通すためにロビー運動を展開してきています。これはシンボル的な意味合いだけでなく、実利的な意味を込めてのことです」。
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