日本酒はどこまでグローバルになれるか

ツーリズムと輸出の好循環で潜在市場を拓く

写真:東京都東村山市の「豊島屋酒造」で行われた酒蔵ツーリズムに参加したカナダ人女性

 今年の前半、訪日客の急増や「爆買い」による経済効果がマスコミを賑わせました。日本政府観光局によれば、2015年3月の訪日外客数は速報値で単月過去最高の152.6万人となり、1-3月で413.1万人に達しました。この勢いでいけば今年は1500万人を突破しそうで、2020年に2000万人という数字も現実味を帯びてきました。ただ、この次元でインバウンドを捉えていては、日本は大きな利益を逸失することになります。

 訪日観光市場は2020年東京五輪招致の決定以降、国を挙げたプロモーションやビザの緩和、消費税免税制度の拡充や円安等によって好調を維持していますが、観光は水モノ、環境に左右される商売です。今こそ、インバウンドをてこに海外市場への日本文化の伝道・伝播を強力に推し進めていく時です。

日本の輸出のうち農林水産物・食品はわずか1%

 財務省の「貿易統計」によれば、2014年日本の貿易総額(確定値)は輸出総額 73兆930億円に対し、輸入総額は 85兆9091億円で、12兆8161億円の「輸入超過」となりました。1980年代以降、輸出が輸入を上回ってきた日本ですが、2011年以降は輸出を牽引してきた工業製品の不振や原発事故後の化石燃料の輸入増等で輸入超過となっています。

 中でも、輸入超過が常態化し、輸入額約8兆円に対して輸出額は5000億円前後をうろうろする状態が続いているのが農林水産物・食品です。

 2014年の農林水産物・食品の輸出額は前年の5505億円から11.1%増の6117.3億円となり、1955年に統計を取り始めて以降初めて6000億円を突破しました。輸出先上位は1位香港1343.2億円(21.9%)、2位米国932.2億円(15.2%)、3位台湾836.6億円(13.6%)で、上位3つの国で52.5%を占めます。

 内訳は農産物3570億円、水産物2337億円、林産物211億円。JETRO(日本貿易振興機構)によると、農産物の品目別の輸出額は日本酒115億円(1万6316t)、リンゴ86億円(2万4120t)、牛肉81億円(1257t)、緑茶77億円(3516t)、醤油51億円(2万6432t)、焼酎16億円(2423t)などとなっています。

 2005年の国勢調査で人口減少が社会問題として顕在化して以降、国内市場の縮小を憂慮した食品や飲食の海外進出が盛んになりましたが、輸出総額に占める農林水産物・食品の割合はいまだに1%にも満たないのが現状です。

 これに対し、農林水産省では農林水産物の輸出の促進を行い、2020年までに輸出額を1兆円にするとしています。世界の食の市場規模は現在340兆円、それが2020年には680兆円に倍増するともいわれています。TPP(環太平洋経済連携協定)もいまだに先が見えませんが、日本はこの市場にどう食い込んでいこうとしているのか。

 今回は日本の農林水産物・食品、中でも海外で日本食とともにブームとなり、訪日観光でも注目度が高い日本酒にフォーカスし、インバウンドと海外市場拡大の可能性と課題を分析してみます。

 大手証券会社を退職して日本酒の輸出と訪日客向けの酒蔵ツアーを行なう若き起業家、海外での日本酒の市場拡大を目指すITベンチャー、6年連続農業算出額全国第2位を誇り、関東最大の46の酒蔵を有する茨城県の取り組みから、この問題を考えます。

※注「酒蔵ツーリズム」は佐賀県鹿島市の登録商標です。

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著者プロフィール

水津 陽子

水津 陽子

合同会社フォーティR&C代表

経営コンサルタント。合同会社フォーティR&C代表。地域資源を活かした観光や地域ブランドづくり、地域活性化・まちづくりに関する講演、コンサルティング、調査研究、執筆等を行っている。

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いただいたコメントコメント6件

日本酒の海外進出に関する記事が、最近、幾つか載っていますが、どうも国内の現状を無視したものが多いように感じます。現在の日本酒の位置は、日本人の中でも所謂「日本酒オタク」が嗜む、完全に非主流の酒です。「國酒」などの大仰な呼称は似つかわしくありません。日本酒を取り巻く一番の問題は明らかで、過去、幾つかの日本酒を取り巻くブームがあった際に、ブームによる需要の増大に応えられず、プレミア化して価格が暴騰し、消費者にとって実際の味と価格が乖離することで結果として消費者を遠ざけました。一体、茨城の蔵元や銘柄を説明出来る日本人、いや茨城県民がどれだけいるでしょうか?今、日本酒が目指すべきは「ワイン」ではなく、真の意味での「國酒」であり、国内の消費者ニーズと嗜好に合わせた低アルコール化と、日本酒の副産物である酒粕の発展的活用と、日本酒の味に対する客観的な指標の策定であると考えます。(2015/05/19)

酒類の管轄が国税庁であるから産業として伸ばす政策が乏しいと考えているのだが、そこに触れる記事を読んだことがない。国税庁がこわいのかな(2015/05/15)

「世界で日本酒の評価や人気が高まる中、このままでは日本産ではない清酒が海外市場を席巻し、世界的な銘柄となる可能性もあります」---これは、カルフォルニアワインやバーボンウィスキーの成功と同じことですね。もし、本当に世界中の人が美味しいと思うものなら、本来の地元以外でも生産されるようになり、どちらも成功する。ですから、日本産でないものが本当に大規模に売れるようになるとすれば、日本産も売れるようになるのではないでしょうか?■しかし、日本酒がそうなるかどうかは、分かりません。この記事の著者は単に宣伝の問題だと捉えているようですが、本当にそうでしょうか? 南ドイツやチェコで生まれたラガータイプのビールがこれだけ世界中で生産され消費されているのに、昔ながらのエールタイプのビールがそれほど広まらないのはなぜでしょうか? ラガーの宣伝がうまかったから? 中国の伝統酒が日本で広まらないのは(千年以上の交流があるのに)、宣伝が下手だから?. . . 多分そうではなくて、純粋に、美味しいと思うかどうかという、問題なのではないでしょうか? 米国に住んでいた頃、個人的に欧米の人に日本酒を飲ませた反応を見ますと、結局、あまり美味しいと思ってもらえないことが多いようです。お世辞で美味しいと言ってくれても、以降自分で日本酒を買うようになる人はごく僅か。カルフォルニア産の日本酒だったら手頃な値段ですし、そこら辺のお店でいくらでも売っているのにです。(2015/05/14)

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