米国の最強投資家、ベン・ホロウィッツが起業家時代に直面した困難と難問の数々を描いた書籍『HARD THINGS』が、日本でも大きな反響を得ている。
前回はインテルの中興の祖アンディ・グローブをはじめ、ホロウィッツが理想とする経営者像を紹介したが、今回は『HARD THINGS』の重要な脇役であるホロウィッツのパートナー、恩師、協力者を紹介したい。彼らは、ホロウィッツが実績ゼロから立ち上げたベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツの立役者でもある。
特に、アンドリーセン・ホロウィッツがまたたく間にシリコンバレーのトップクラスのベンチャーキャピタルへと成長できた陰の主役が、ショービジネス界の伝説的大物、マイケル・オービッツだったというのが興味深い。彼らを順番に紹介していこう。

意外にもシャイな天才、マーク・アンドリーセン
最初に紹介するのは、ベン・ホロウィッツの20年来の盟友にして、共にベンチャーキャピタルを立ち上げたパートナーのマーク・アンドリーセンだ。
ホロウィッツは27歳のときに、創業直後のネットスケープに入社しようとしていた。最終面接で登場したのが、ネットスケープ共同創業者のマーク・アンドリーセンだった。ホロウィッツは27歳、アンドリーセンはわずか22歳だった。
当時、インターネットがコンピュータネットワークのインフラになるとは誰も予想せず、クリントン政権は中央集権的な『情報スーパーハイウェイ構想』を推進しようと躍起になっていた。しかしマーク・アンドリーセンは、ウェブ・ブラウザの機能、セキュリティ、ユーザーインタフェースを改良していけば、インターネットが未来のコンピュータネットワークの中心になると確信していた。
〔アンドリーセンによる採用面接では〕履歴書について聞かれることはなかった。前職についても、職務に取り組む心構えについても、聞かれなかった。マークはメールの歴史、コラボレーション・ソフトウェア、コンピュータネットワークの未来といったテーマについて、次々と質問を浴びせてきた。
――『HARD THINGS』第1章より
ホロウィッツは5歳も年下のアンドリーセンが異常にコンピュータ・ビジネスの歴史に詳しく、おそろしいほど頭が切れることに感銘を受ける。アンドリーセンもホロウィッツの知識とリーダーシップに感銘を受けたようで、ネットスケープでエンタープライズ・ウェブサーバーの開発を任される。その後、マイクロソフトの攻勢にネットスケープがあえぐ時期に、アンドリーセンがホロウィッツに癇癪(かんしゃく)を爆発させ「自分でインタビューを受けてみろ、くそったれが!」とメールで罵倒したりするが、結局2人は親友になりあらゆる事業で緊密なパートナーとなる。面白いのは、ホロウィッツならではのアンドリーセン評だ。
アンドリーセンは、もしかしたら世界で一番頭の切れる人間でありながら、あまりにも控え目だったからだ。他人はアンドリーセンを賢いと思っていないと彼自身が信じているため、無視されることに対して非常に神経質でもある。
――『HARD THINGS』第5章より
私(滑川)は2007年にテクノロジー系のニュースサイト、TechCrunchが開催したカンファレンスに参加して壇上のアンドリーセンを間近で見たが、それまで見慣れていたプロフィール写真とは打ってかわったスキンヘッド、プロレスラーのような巨体の人物を前に、しばらくはこれがアンドリーセンだと気づかなかった。ちなみに右側は、シリコンバレーの起業家養成スクール、Yコンビネータの創業者ポール・グレアムだ。

この現在のアンドリーセンの風貌からは、「自分は周囲から賢いと思われていないと思う神経質な人間」とはとても思えないのだが。
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