「中途入社のハンデはありません」。一昔前のこんな採用広告のコピーが懐かしいと思えるほど、中途採用は一般化してきた。その結果、新卒一本槍だった時代にはなかった問題が起きている。
中途採用・・・入社後の対処が難しい
厚生労働省「一般職業紹介状況」によれば、有効求人倍率は13年ぶりに年間で1倍を超えた(2007年3月時点)。中途市場でも人手不足感が高まっている。求人難の時には、採用要件がどうしても甘くなるが、採用する人の質が落ちた時の悪影響は大きい。採用後の対処にかかる心労と労力は、採用時の何倍にもなる。
日本企業の人事担当者らの代弁者である野々村部長。彼が勤めるマルコーでも、積極的に中途採用を行っている。マルコーは順調に成長しているが、流通業界の常として定着率が低く、新卒だけでは間に合わない。それに加えて、社長である大黒氏の下で、企業変革を引っ張る人材を集めている。(野々村さん自身、その改革担当者の第一陣として中途で入ってきたのだ)。それがゆえに、中途採用を巡る問題も起きる。

野々村人事部長
野々村部長。今日は朝から興奮気味だ。電話で言い争いをしている。相手はマルコー社内の店舗運営本部長だ。どうやら、数カ月前に中途入社した店長が引き起こした金銭トラブルに対して、本部長が人事部側の責任を追及しているらしい。
「あのね・・・人事部でもちゃんと採用の時に見てくれなければ困るよ。現場は素人だからね」
「問題がありそうなのでもう一度人事で会いたい」と言ったのに、現場の窮状を訴えて急がせたのは現場じゃないか。「人事に回ってきた時には、すでに採用条件についてもご本人と約束していた、と聞いていますが・・・」。感情を抑えて対応していたが、周囲には野々村さんの不快感が伝わっていた。
「マルコーは一般消費者をお客様としていますので、信頼は重要です。役職のある方が採用を約束してしまったものを人事が撤回するのは困難です」
「しかしだねぇ、金銭トラブルを起こすようでは、信頼にも影響するだろう」
「ですから、そういう人を採用しないためにも、面接の際には不用意なお約束をされないように、と現場の面接官の方にお願いしているのです」
「そうは言っても、現場の人手不足は深刻だからねぇ。まずは人手を確保したいという現場の気持ちを分かって対応するのも人事だろう」
「人事は現場の尻拭い部門じゃない!」と喉まで出かかった言葉を飲み込んで、野々村さんは立ち上がる。「電話ではなんですから、そちらに伺います。今、よろしいですか?」
電話を切ると、野々村さんは足早に本部長のもとに向かった。
賞味期限切れの「一芸人材」
中途採用は「新卒採用」と異なり、採用要件や選考方法、採用の決定まで現場に委ねられていることが少なくない。企業には多くの異なる職務があるため仕方ないことではあるのだが、現場に採用が委ねられているがゆえの問題がある。
その1つが、特定の知識やスキルに長けた「一芸人材」の採用だ。
中途採用をする時には、通常具体的な仕事内容や役職はあらかじめ想定されている。また長期的視野に立って採用するというよりは、直近の問題に対応すべく、採用しようとしていることが多い。知識やスキルの変化が激しいIT(情報技術)業界や、上場準備・内部統制対応など、特殊な知識が必要となった時に、この「一芸人材」の採用が目立つ。
問題なのは、「一芸人材」の仕事が一段落した「後」だ。大抵の場合、他の部門に異動になるのだが、かつて特定の知識やスキルがあるために「優秀」とされてきた人は、いつの間にか「融通の利かない問題社員」になっているケースが少なくない。その結果、本人のモチベーションが下がって退職し、残った社員には会社に対する不信感が残るのだ。
貧すれば鈍する現場の焦り
現場任せの採用にはほかにも問題がある。昨今、人手不足に対する現場の焦りは大きい。売り手市場になると、応募者の質は下がる。企業側も初めはそれを冷静に受け止めているが、徐々にそのレベルに慣れてしまう。そのうちに、「とにかく採用しなければ仕事が回らない」との焦りから、目の前にいる「一見良さそうな」候補者をつい採用してしまう。
現場の焦りは、安易な約束や不用意な発言を招く。複数の面接、応募資料、筆記試験結果などを吟味して決めるべきところを、1度の面接で決めてしまう。逃げられるかもしれないという不安から、何らかの言質を与えてしまう。一連の不用意な「口約束」は、面接という密室で行われてしまうので、人事にはコントロールできない。面接の場で何らかの約束をしたら、それを人事が覆すのは難しい。
最も罪深いのは、報酬など採用後の処遇に関する言質だ。この「口約束」は、会社の報酬体系を崩してしまう一因になる。人件費増になることは分かっていながら、採用条件をつい口にする、という事例は枚挙にいとまがない。
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