「野々村人事部長の歳時記」

「キャリアアップをしたい」は“建前”
社員が辞める本当の理由

会社を辞めた人たちへのインタビューで分かること

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2007年7月30日(月)

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 多くの日本企業で退職者が増えるのは、賞与が支給される7月と12月だ。(3月決算の会社では3月が加わる。)この時期、送別会が開かれ、花束を持つビジネスパーソンの姿が電車の中で散見される。送別会の席上で、去る側はさっぱりした表情、残される側は割り切れない表情、という、まるで恋人同士の別れのような風景もよく見かける。実際、残される側にとって、本当の「別れ」の理由は謎のままだ。

優秀な人から辞める?

野々村人事部長

野々村人事部長

 「いろいろとお世話になりました」。中堅流通チェーンのマルコーの人事部長、野々村さんの元に退職の挨拶に現れたのは、商品部の若手社員だ。彼は新卒で入社してから4年半、「頑張り屋で将来が期待できる若手」という評価を周りから受けていた。当然、人事考課も低くなく、同期の中では先頭グループに入っている。社員たちの間では、「ウチの会社は優秀な人から辞めていく」という噂があることが、野々村さんの頭をよぎる。

 「ウチを辞めて、これからどうするの?」「はい、ずっと忙しくて自分を見つめ直す時間もとれませんでしたから、しばらくゆっくりと考えたいと思います」

 商品部の若手は、つきものが落ちたようなサッパリとした表情で応えた。野々村さんは、「次も決めずに辞めるのか?」と、喉元まででかかった質問をグっと飲み込み、「そうか。元気で頑張ってな。長い間お疲れ様」とねぎらいの言葉をかけ、彼の背中を見送った。

 マルコーも、流通業界の例に漏れず、社員の定着率が高いとはいえない。かつて、営業時間を延長した後に、立て続けに店長が退職した時期があった。それ以来、多数の退職者がでたことに危機感を感じた先代社長の指示で、退職者への聞き取りが実施されている。商品部の若手も例外ではなく、報告書があがってきている。彼のサッパリした顔が気になった野々村さんは、改めてその報告書に目を通してみることにした。


退職者たちへのインタビューをまとめた報告書

 大手転職サイト「リクナビNEXT」編集部による「退職理由の『ホンネ』と『タテマエ』アンケート」(2005年4月実施)によると、「タテマエ」のダントツトップは「キャリアアップしたい」で、半数近くに達している。次いで「仕事が面白くない、変化がない」「会社の経営方針・経営状況の変化」と続く。

 一方、本当の退職理由、「ホンネ」とは何なのだろうか?一位は「上司との人間関係」。二位、三位は「給与に不満足」、「仕事が面白くない、変化がない」となり、この3項目で3割強を占めている。

若い社員

若手社員

 多くの面接で、転職希望者は退職理由を尋ねられる。面接の場では、応募者は「タテマエ」に出てきた内容を口にすることが多い。ところが、「キャリアアップしたい」という応募者にその方向性を尋ねても、漠とした答えしかかえってこないことは少なくない。「仕事が面白くない、変化がない」という応募者に仕事観を尋ねた場合も同様だ。
「ホンネ」の結果を見れば、それは当然。面接という公式の場では、できる限り前向きな返答をしたい、というのも頷ける。

定着率は会社の通信簿?

 採用面接で定着率や離職率に関して質問されることがある。どうやら、特に新卒は、定着率や離職率を会社の通信簿の項目ととらえているようだ。また、企業の月次決算報告の場で、人員の増減率が示されることは多く、それに対し苦言を呈する経営者もいる。経営者が若い頃、大企業では終身雇用が当然だったため、中途退職は「落ちこぼれ」という印象があるのかもしれない。オーナー企業やベンチャーでは、「ついてこられない」から退職したと考える人もいる。一方で、「ウチの会社は優秀な人材が少ない」と口にしながら、中途退職に全く無関心な経営者がいるのも事実だ。

 知的資産が重視される昨今、人材の流出は、単なる労働力の減少だけではなく、知的資本の流出にもなる。実際に、人材の回転率の高い企業は、「積み上げ」による知見の厚みに欠けている。多くの場合、それを実感しているのは現場だ。

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著者プロフィール

瀬川 明秀(せがわ・あきひで)

日経ビジネス副編集長。

野々村人事部長

野々村人事部長

年齢は48歳。
大学卒業後、電機メーカーに入社。営業の仕事に従事し、10年目に人事部へ異動。採用から研修、人事考課の取りまとめまで、3年でひととおり人事の実務を経験した。人事部在籍4年目の人事課主任の時に、中堅の半導体用機械メーカーに転職し、採用マネジャー、教育研修マネジャー、人事課長と、人事畑で着実に経験を積む。人事部部長代理になって2年目の43歳の秋、大学時代のラクビー部の先輩で、中堅の流通チェーン・マルコーの2代目社長・大黒氏から乞われて、人事部長に。現在は、同社で人事・教育全般の統括と、組織風土改革プロジェクトの事務局長を務めている。

永禮 弘之(ながれ ひろゆき)

永禮 弘之

株式会社エレクセ・パートナーズ代表取締役
これまで、化学会社の経営企画、外資系コンサルティング会社のコンサルタント、衛星放送会社の経営企画部長・事業開発部長、組織変革コンサルティング会社の取締役などを経て現在に至る。建設、化学、医薬品、食品、自動車、電機、情報通信、小売、外食、ホテル、教育出版、文具など幅広い業界の企業に対して、7000人以上の経営幹部、若手リーダーの育成を支援。ASTD(アメリカに本部がある、世界最大の人材開発・組織開発の非営利団体)日本支部理事、リーダーシップ開発委員会委員長。

著書・雑誌寄稿:『強い会社は社員が偉い』日経BP社、『問題発見力と解決力』日経ビジネス人文庫(共著)、『グループ経営の実際』日本経済新聞社(共著)、『日経ビジネスオンライン』連載「野々村人事部長の歳時記」、『日経ビジネスアソシエ』連載「MBA講座」、最近の著書に『強い会社は社員が偉い 社員様第一経営のススメ』(NB Online book)がある。

 



このコラムについて

野々村人事部長の歳時記

昨今、日本企業に取り入れられている人材育成や人事の仕組みや考え方について、研修やコンサルティングをする中で、我々が聞いてきた疑問の声を取り上げながら、人事のあるべき姿について皆さんと考えていく。

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