「「跡取り娘」の経営戦略」

父母の死後、20歳で社長に。「子育てタクシー」に夢を託す

湯江タクシー3代目社長 内田輝美さん(前編)

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2009年3月4日(水)

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 急用や病気で送り迎えができない親に代わって、タクシーが保育園や塾へ子供を安全に送迎する。乳幼児を病院に連れていく母親のために、乗車の際にタクシー乗務員がベビーカーや荷物の積み下ろしまで手伝う――。

 5年前、高松市にあるタクシー会社と子育て支援のNPO法人(特定非営利活動法人)がタッグを組んで始めた、こんなサービスが全国各地に広がり始め、話題を呼んでいる。

 通称「子育てタクシー」の旗振り役となっているのは、2007年12月から「全国子育てタクシー協会」会長を務める内田輝美だ。内田自身が社長を務める湯江タクシー(長崎県諫早市)でも、2006年9月からこのサービスを始めている。タクシー会社が単独で実施している例は、香川、山口で既にあったが、タクシー協会加盟会社全社で「子育てタクシー」に取り組むのは、全国でも初めてのことだった。

   「核家族化の進展と地域コミュニティーの崩壊で、小さな子供を持つ母親の多くが子育てに苦労している。地域に密着して仕事をしているタクシードライバーが手助けできることは少なくないはず」と内田は言う。

湯江タクシーの内田輝美社長

湯江タクシーの内田輝美社長
(写真:山田 愼二、以下同)

 そんな内田の考えに賛同した同業者が次々と輪に加わり、現在、北海道から沖縄まで全国55のタクシー会社が同様のサービスを手掛ける。

 赤ちゃんを連れた客や、保育園や塾帰りなどの子供の1人客は、対応が難しかったり、短距離の依頼が多かったりするため、敬遠されることも少なくない。だが、「子育てタクシー」を看板に掲げるタクシー会社の乗務員は、子供とのコミュニケーションや小児救急法などの知識を研修で身につけているので、乗客も安心して乗れる。

 そのうえ「子育てタクシー」は、特別なサービス料を取ることもなく、原則として乗車賃は通常のタクシーと変わらない。子供の安全確保のため事前に会員になる必要があるが、登録料は無料。予約をすれば、チャイルドシートや、子供の年齢に合わせたおもちゃを乗せたタクシーで、玄関の前まで迎えに来てくれる。また、子供のみの乗車の場合は、きちんと送り届けたかどうかの連絡も入るなど、子育て家庭にとってはありがたいサービスだ。

地域に定着し始めた「子育てタクシー」

 湯江タクシーがこの取り組みを始めた当初は、「子供1人でタクシーに乗せるのは何となく不安」とサービスの利用をためらう母親もいたという。しかし、内田と乗務員たちの奮闘の結果、子育てタクシーは次第に地域に定着。今では、地元の子育て家庭にとって貴重な交通手段になりつつある。

湯江タクシー本社タクシーの車体には「子育てタクシー」のステッカーが張られている

湯江タクシー本社。タクシーの車体には「子育てタクシー」のステッカーが張られている

   「子育てタクシーを始めたからといって、乗客や売り上げが特に増えたわけではありません。でも、この取り組みをきっかけに、乗務員が見違えるように業務に励むようになったし、ほかならぬ私も、タクシー会社の経営という仕事に、前よりも誇りを持てるようになったんです。それが一番の収穫かな」。

 湯江タクシーは内田の父である清水輝雄が創業した。主要営業エリアは諫早市東部、高来町と小長井町。保有台数10台、従業員16人、年商7000万円の小さなタクシー会社である。小粒ながら、バブル崩壊や規制緩和など幾多の経営環境の悪化を乗り越えて今日までしぶとく生き残ってきた。

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著者プロフィール

荻島 央江(おぎしま・ひさえ)

ライター、エディター。埼玉県生まれ。食品販売会社在職中に、映画紹介・評論記事の執筆活動を始める。2002年からフリーランスとなり、情報誌や女性誌などで取材・執筆を手掛ける。現在はビジネス誌を中心に活動しており、「日経トップリーダー」や「日経メディカルオンライン」などで執筆。主に、著名経営者の密着ルポや中小企業の経営分析に携わる。



このコラムについて

「跡取り娘」の経営戦略

 以前は、長男や娘の婿が家業を継ぐのが常識だった。しかし最近では、娘が自ら家業を継ぐケースが増えている。このコラムでは、こうした「跡取り娘」たちの経営戦略をインタビューする。 女性リーダーのための記事は「NBonline Women at Work」へ。

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