「「跡取り娘」の経営戦略」

「ネットもメールもできません」。機能を削って大ヒットのポメラ

キングジム4代目社長 宮本彰さん

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2009年6月26日(金)

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 今回は連載コラムの番外編、「跡取り娘」ならぬ「跡取り息子」の登場である。2008年11月発売以来、品切れするほどの大ヒットを記録した、デジタルメモ「ポメラ」。その開発秘話をお届けする。

 「メールにインターネット、ゲームに音楽、ビデオ編集…。これすべてできません。私にできるのは1つだけ。文字を打つこと、それだけ――」というテレビCMをご存じだろうか。

 それは、老舗事務用品メーカー、キングジムのデジタルメモ「ポメラ」である。CMに嘘偽りはなく、本当にポメラには文字を打つという機能しかない。

キングジム社長宮本彰さん(写真:いずもと けい)

 このポメラが、売れている。昨年11月の発売と同時にほぼ品切れ状態。当初年間3万台の販売計画だったが、年間売り上げ台数は10万台にも達する見込みだ。

 「『そんな不便なもの、どんな人が買っているんだろう』と不思議に思われる方もいるかもしれません。でも実は、当社の経営陣の中に『ポメラ』の大ファンが1人いるのです」と言うのは、同社の4代目である宮本彰社長だ。

 「当社の社外取締役である慶應義塾大学の印南一路教授は、自分のスタイルで原稿を書くのに最適な道具がないことに、ずっと不満を持っていました」

ただ、原稿を書きたいだけ。そんな機器はないものか

 印南教授は職業柄、出張が多く、飛行機や電車の中などの移動時間はほとんど原稿書きの時間に充てていた。このため、長い間ノートパソコンを出張に携帯していたという。

 印南教授にとっては、このノートパソコンが何よりストレスの種になっていた。まず、大きくて重い。そのうえ、起動が遅い。ふと閃(ひらめ)いたアイデアをメモするのに何分もかかる。

 「インターネットも見なければメールも送らない。ただ原稿を書きたいだけなのに、なんでこんな重くて不便なものを持ち歩かなければならないのか」。それが印南教授の長年の不満だった。

ポメラの大きさはてのひらに載るくらい(写真:山田 愼二)

 ポメラはそんな印南教授に、劇的な利便性をもたらした。重さは約370グラム、大きさは手のひらサイズ。スイッチを押してから2秒で立ち上がる。パソコンをシャットダウンした直後にいいフレーズを思いつき、イライラすることも一切なくなった。

 「そうは言っても、飛行機や電車での移動中に原稿やリポートを書く人なんて、世の中の人のごくわずかでは」と考える人もいるだろう。まさにその通りで、ポメラを欲しいと思う人は、全体から見ればかなりの少数派と言える。

企画当初は、経営陣が大反対

 実際、同社の役員会議でポメラの開発担当者がプレゼンした時も、経営陣の反応は惨たんたるものだった。

 「文字入力しかできないの?」「携帯電話以下の機能じゃないか」「それで2万円以上の価格なんて売れるはずはない」。参加していた役員15人のうち14人が相次いで反対し、「待ちに待っていた商品だ」と絶賛したのは、ほかならぬ印南教授ただ1人だったという。

 しかし、宮本社長はそんな光景を見たことで、逆に「思わぬヒット商品になるかもしれない」と手応えを感じ、開発にゴーサインを出した。多数の役員の反対を押し切って商品化を進めさせたのは、ポメラという商品が、宮本社長自ら考える「ヒット開発の方程式」に当てはまると確信したからだ。

 典型的な成熟市場と空前の消費不況という悪条件の中で生まれたヒット。その裏側には、4代目である宮本彰社長の「ヒットの方程式」がある。

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著者プロフィール

荻島 央江(おぎしま・ひさえ)

ライター、エディター。埼玉県生まれ。食品販売会社在職中に、映画紹介・評論記事の執筆活動を始める。2002年からフリーランスとなり、情報誌や女性誌などで取材・執筆を手掛ける。現在はビジネス誌を中心に活動しており、「日経トップリーダー」や「日経メディカルオンライン」などで執筆。主に、著名経営者の密着ルポや中小企業の経営分析に携わる。



このコラムについて

「跡取り娘」の経営戦略

 以前は、長男や娘の婿が家業を継ぐのが常識だった。しかし最近では、娘が自ら家業を継ぐケースが増えている。このコラムでは、こうした「跡取り娘」たちの経営戦略をインタビューする。 女性リーダーのための記事は「NBonline Women at Work」へ。

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