前回に続いて取り上げるのは――“That's interesting!"
(Davis, M. S. 1971. That's Interesting! Philosophy of Social Science, 1:309-344.)
前提と対象
「interestingが大事なことは分かった。でもやっぱり、正しい理論のほうが重要なのでは」と思われる方もいらっしゃるでしょう。その通りだと思います。ただ、結局、正しいか正しくないかということを考える出発点は「ふつうはAなのに、なぜBなんだろう」と思う、つまり疑問から始まることであるとすると、「ふつうはAなのに」と思う前提が大切であるということは間違いないでしょう。前提のないところに問題もないのです。
また、この点と関連して、デービスは繰り返し「なんとなく正しいと思っている前提(weakly held assumption)を掘り下げ、否定することの大切さを指摘しています。確かに、正しい理論は大切なのですが、正しい理論がやっぱり正しいですねと言っても、だれもinterestingだとは思いません。「当たり前だ!(That's obvious!)」とスルーされることは間違いありません。
また、誰も気にしていないこと、つまり「前提」を持っていないことに対して何かすごいことを言っても、注目を浴びることはありません。「関係ねーよ!(That's irrelevant!)」といわれるのがオチです。
最後に、前提全て、特に強く信じている前提をすべて否定、例えば日本式の経営手法はいいところは何もないから、すべて捨て去るべきだなんて言ったりしたら、「馬鹿言うな(That's absurd!)」と一蹴されてしまうでしょう。
ハーバード大学のクリステンセン教授も指摘するように(*1)、全体を捨て去るのではなく、何は正しくて何はそうでないか、どのような時は正しくどのような時はそうでないかといったコンティンジェンシー的な考え方も重要です。
相手の「前提」が分からなければ、コミュニケーションが成立することはありません。また、組織の中で明らかにみえる問題になかなか手が付けられなかったり、同じような失敗を繰り返したりするのは、こうした「前提」が共有化されていないことが原因になっていることも多いのです(*2)。
当たり前ですが「前提」はあからさまにして議論をするのではなく、わかっている、共有されていることを「前提」に進むのですが、砂の上に大きな建物が建たないのと同じで、これが間違っていたり、かみ合っていなかったりするとどんなに時間をかけても問題は解決しません。
(*1) Chiristensen, C.,M., & Raynor, M.E. 2003. Why hard-nosed executives should care about management theory. Harvard Business Review, 81(9): 66-74. 邦訳「よい経営理論、悪い経営理論」
(*2) 清水勝彦2011『組織を脅かすあやしい常識』(『その前提が間違いです』の加 筆、新書化)
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