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わざわざ失敗することが必要な4つの理由

論文「『知的失敗』の戦略」と「『意図した失敗』のすすめ」を読む(3)

2013年8月27日(火)

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前回に続いて今回も取り上げるのは――

リタ・マグレイス 「知的失敗」の戦略
(ハーバードビジネスレビュー2011年4月号、邦訳ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー、2011年7月号)

ポール・シューメーカー&ロバート・ガンサー 「意図した失敗」のすすめ
(ハーバードビジネスレビュー2006年6月号、邦訳ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー、2007年4月号)

 「知的失敗」よりさらに進んで「意図した失敗のすすめ」を説くのがシューメーカーとガンサーです。ただ、前回のリタの「知的失敗」のところでもそうですが1つ注意しておかなくてはならない点があります。「失敗が許される領域と、許されない領域を決めておく」ことです。例えば、UPS(米国のヤマト運輸と思ってください)の場合「失敗しても、顧客には絶対に影響が及ばないようにする」ことがこの境界線になっているといわれます。

 さて、それでは、なぜわざわざ失敗することが必要なのでしょうか? 2人は4つの理由をあげます。

1.人間はそもそも自信過剰であるから

 未熟な時は、いろいろ努力をして自分を磨こうとしますが、成功すればするほど、人は慢心し、細部や変化に注意を払わなくなります。その良い例が、部下の報告を途中で遮り「わかった、もういい」という上司でしょう。自分のほうがよく知っている、何でも分かっているという「思い込み」が「分かったつもり」「油断」につながり、後で大失敗してから「なぜあの時ちゃんと話さなかったのだ」なんて部下を責めたりするタイプです。

 ただ、この「自信過剰」の難しさは、気を付けていても無意識のうちに人の頭を侵食します。とくにマスコミなどに取り上げられたり、褒められたりするうちに「おれはすごいのかも」と思ってしまい、会社が傾くベンチャー企業の例はよくあります。そうなる前に致命的でない失敗をし、自分の限界を知る(気づく)ことはとても大切です。

「何でも分かってきた」と思う時期が一番危険

 ミシガン大学の社会心理学の大家カール・ワィク教授のハーバードレビューの論文「不測の事態の心理学(原題:Sense and reliability)」(2003年)には、原野火災専門の消防士が一番、死亡したりけがをしたりするのは、大体何でも分かってきたと思う10年目であるという指摘があります。さらに、そうした消防士が炎に取り囲まれた時には、消火用の装備を捨てて素早く逃げることが重要なのだそうです。

 しかし、現実には、分かっていても、自分のアイデンティティでもある装備を捨てることは難しいため、わざわざ装備を投げ捨て、どれだけ身軽になるかを「実感」する訓練をするのだそうです。「失敗」をして「あれ? おかしい」と思うことが、「これでいいんだ」と思っていたり、あるいは頭では分かっているつもりでなかなか変えられない自分に対する大切な刺激の意味を持つのです。

 ちなみに、この前私のクラスに来てくださったメガネの「JINS」の田中仁社長は自らの失敗の経験を踏まえ次のようにおっしゃってました。

成功に油断しないための一番の方策は、挑戦し続けることだと思います。

 こう考えてみると、セブンイレブンが「仮説・検証」と繰り返しながら、成熟したといわれるマーケットで成長し続け、一方で多くのスーパーマーケットチェーンが傾いて行った理由もわかる気がします。

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「わざわざ失敗することが必要な4つの理由」の著者

清水 勝彦

清水 勝彦(しみず・かつひこ)

慶應義塾大学大学院教授

東京大学法学部卒業。ダートマス大学エイモス・タックスクール経営学修士(MBA)、テキサスA&M大学経営学博士(Ph.D)。戦略系コンサルティング会社のコーポレィトディレクションを経て研究者に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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