「宮田秀明の「経営の設計学」」

「客より燃料が重い船」が頓挫した必然

技術と人材から始まる産業の衰退

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2006年6月16日(金)

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 昨年、高速船「テクノスーパーライナー」の挫折が大きなニュースになった。国が推進し、116億円を投じて建造した小笠原行きの高速船があまりに不採算なため就航できなかった。軍用を含む他の用途に使うこともできず、今も造船所に係留されたままだ。投資額こそ2桁少ないものの、東京湾アクアラインや本州四国連絡橋に匹敵する失敗である。

航空機を目指した高速船

 根本的な原因は、空気圧で浮上する仕組みを使った高速船の航行システムにある。ペイロード(乗客などから料金を取れる積載重量)より燃料の方が重いシステムを採用していたのだが、現在の輸送機器で燃料の方が重くとも採算がとれるのは航空機だけ。それは、時速850キロメートルという高速で移動できるからだ。

 高速船といっても、航行速度は航空機の10分の1以下でしかない。その程度の速度の輸送機器では、「燃料の方が重い」などということは許されない。このことだけでも、テクノスーパーライナーの失敗は予定されていた。そして、燃料費の高騰がダメを押した。

 テクノスーパーライナーのプロジェクトは1988年から17年も続けられた。第1段階で開発した2種類の新しい高速船の片方は、早々に失敗した。もう1種類の高速船で採用したシステムの開発を長期間引っ張り続け、国費を投入して、昨年決定的な幕引きに至ったのである。

 日本がテクノスーパーライナーを開発していた17年間は、世界的な高速船開発競争の時代だった。90年代前半までは、日本もそれなりに成果を出していたのだが、21世紀になって、高速船の世界マーケット(年間1500億円程度)をオーストラリアとEU(欧州連合)が支配してしまった。

取り残された日本の造船業界

 日本の成功例としては、企業2社と筆者が開発した「双胴水中翼船」と「細長双胴船」という2種の新型高速船くらいか。これらの船は、合計11隻建造され、「広島−松山」「小倉−松山」「熊本−島原」などの航路で使われていて、なかなか好評である。しかし、残念ながらあまりにも小さな普及と言わざるを得ない。

 現在、日本の造船業は大量の受注を抱え、これから数年は(久しぶりに)利益を出せそうである。昨年後半の中国要因による海上運賃の急激な高騰のおかげである。

 しかし、その後の見通しは大変暗い。

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著者プロフィール

宮田 秀明 (みやた ひであき)

宮田 秀明

1948年生まれ。1972年東京大学大学院工学系研究科船舶工学専門課程修士修了。同年石川島播磨重工業(現IHI)に入社、77年に東京大学に移り、94年より同大教授。専門は船舶工学、計算流体力学、システムデザイン、技術マネジメント、経営システム工学。世界最高峰のヨットレース「アメリカズ・カップ」の日本チーム「ニッポンチャレンジ」でテクニカルディレクターを務めた。著書に『アメリカズ・カップ―レーシングヨットの先端技術―』(岩波科学ライブラリー)、『プロジェクトマネジメントで克つ!』『理系の経営学』(日経BP社)など



このコラムについて

宮田秀明の「経営の設計学」

経営には「論理」が必要である。論理を積み重ねた理系思考がイノベーションを育む。技術力を最大限に生かし、プロジェクトをまとめ上げ、新しいビジネスを創造する。「理系の経営学」を提唱する東京大学の宮田秀明教授が理系の視点による経営の要諦を語る。

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