「宮田秀明の「経営の設計学」」

サッカー日本代表を破綻させた“構想力”の欠如

「技術力の過信」と「偶然への期待」が導いた敗北

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2006年7月21日(金)

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 サッカーのワールドカップで日本チームは大きな期待を集めながら1勝もできなかった。まだ技術力が世界のレベルから遠いというのが世の中の総括のようだ。だが、実際は世界レベルの勝負の世界に対する認識を誤っていたのではないだろうか。

 「世界一のチームの技術力が100とすると、日本チームの技術力は97。たった3%しか差がないので、日本チームには世界レベルと同等の力がある。ひょっとしてブラジルにも勝てるのではないか」

 技術力に関するこうした考え方は間違いである。世界のトップレベルでは技術力で3%の差は決定的で、決してひっくり返ることはないのだ。草サッカーやJリーグの水準なら、何かの偶然が左右して3%の差をひっくり返すことがあるかもしれない。だが、世界のトップレベルで戦う時に、偶然を期待した戦略は通用しない。

たった0.2%の差で敗れる

 例えば、自動車レースの最高峰F1では、トヨタ自動車やホンダのチームが強くなり、今シーズンはそれぞれ1回ずつ、3位で表彰台に立った。F1で3位のチームと1位のチームの平均速度を比較すると、その差はほんの0.5%前後である。速度差が1%以上あると、なかなか3位、4位に食い込むことはできない。

 これは自動車レースだけでなく、ヨットレースでも同じである。私が参画した世界最高峰のヨットレース「アメリカズカップ」では、1回のレースに2時間から2時間半ほどかかる。レースで1分、つまり0.7%の差がつくとそれは大差の敗北である。

 2000年のアメリカズカップ。競合チームより平均速度が3%速い船を開発することが、テクニカルディレクターを務めた私に課せられたテーマだった。日本チームのセーラーの実力は参加11チーム中最下位。これはレースで戦う上の前提条件なので、3%速い船でセーラーの操船能力を、造船の技術力でカバーしなければ優勝できないからである。しかし、結局は2%しか速くできなかった。予選では2位に入ったが、準決勝で負けてしまったのはそのためである。最後のレースのタイムは130分余り。トップとの差は18秒だった。たった0.2%の差で敗北したのである。

 それでは、仮にサッカー日本代表の「技術力」が、イタリアやフランス、ドイツ、ブラジルなどの強豪国と同等だったとしたら、ワールドカップで準決勝や決勝に進出できただろうか。

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著者プロフィール

宮田 秀明 (みやた ひであき)

宮田 秀明

1948年生まれ。1972年東京大学大学院工学系研究科船舶工学専門課程修士修了。同年石川島播磨重工業(現IHI)に入社、77年に東京大学に移り、94年より同大教授。専門は船舶工学、計算流体力学、システムデザイン、技術マネジメント、経営システム工学。世界最高峰のヨットレース「アメリカズ・カップ」の日本チーム「ニッポンチャレンジ」でテクニカルディレクターを務めた。著書に『アメリカズ・カップ―レーシングヨットの先端技術―』(岩波科学ライブラリー)、『プロジェクトマネジメントで克つ!』『理系の経営学』(日経BP社)など



このコラムについて

宮田秀明の「経営の設計学」

経営には「論理」が必要である。論理を積み重ねた理系思考がイノベーションを育む。技術力を最大限に生かし、プロジェクトをまとめ上げ、新しいビジネスを創造する。「理系の経営学」を提唱する東京大学の宮田秀明教授が理系の視点による経営の要諦を語る。

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